この7月、毎日新聞社から東京ヘレン・ケラー協会に移籍し、点字出版所長に就任いたしました。点字出版の役割の大きさはもちろんのことですが、視覚障害者の皆様へ、よりよい情報をより多くお届けできるよう務めたいと考えています。どうぞよろしくお願い致します。
さて、当協会点字出版所は、1968年に開設され、初仕事が「第8回参議院議員選挙のお知らせ点字版」だったと、協会の50年誌に記録されています。以来、「選挙公報」は点字出版所の仕事の大きな柱であり続けて参りました。
このたび、全国の点字出版施設が手を結び、来年の参議院議員選挙比例区を手始めに、全都道府県もれなく「選挙公報の全文点訳版」を発行できる見通しとなりました。視覚障害の方への情報格差が少しでも埋まればという願いから日本盲人福祉委員会がまとめ役となって合意に至ったものです。私どもの点字出版所は、諸般の事情から前回までこの事業への参加を見合わせて来ましたが、次回から戦列に加わらせていただき、微力を尽くすことにいたしました。衆議院選を含め国政選挙すべての広報を発行することが目標ですが、点字出版施設全体の体力や力量も配慮する必要があります。まずは一歩前進と受け止めてくだされば幸いです。
日本盲人社会福祉施設協議会が、年に1回開催する全国盲人福祉施設大会が、今年は6月26、27の両日、幕張プリンスホテル(千葉市美浜区)で開催された。第54回を数える今大会は、全国の施設職員やボランティアら200余人が参加した。
26日の開会式では、本間昭雄理事長が「ご存知の通り4月から障害者自立支援法が施行され大変重要な時期にある。皆様方と情報を交換し合いながら、今後あるべき姿を見いだし、行政当局とも折衝しながら、より良い福祉の向上につなげたい」とあいさつ。続く事業部会では、点字出版部会、情報サービス部会、盲人用具部会、リハビリテーション部会、就労支援部会、生活施設部会に分かれ、17年度決算や18年度予算などの報告が行われた。
その後の分科会は、今年より3部会ごとにまとめられて行われた。点字出版部会、情報サービス部会、盲人用具部会合同の第1分科会では、「障害者自立支援法と視覚障害関係者の対応」がテーマ。司会はアメディアの望月優氏、パネラーは日本ライトハウス盲人情報文化センターの岩井和彦氏、京都ライトハウス情報製作センターの田中正和氏、日本点字図書館用具事業課の杉山雅章氏の3名、助言者はロゴス点字図書館の高橋秀治氏。岩井氏は、コミュニケーション支援事業について1月25日に厚労省より発表された要綱案の事例を紹介。要綱案の事業目的には、対象に視覚障害者が明記されていなかったため、日盲社協と全国視覚障害者情報提供施設協会の連名で厚生労働大臣に要望を出し、対象に視覚障害者を明記させ、点訳・音訳支援事業も範囲内となったと報告。また田中氏は、点字図書給付事業(価格差補償制度)について発表。今年秋に地域生活支援事業に移行されると点字図書給付事業実施要綱が無効化し自治体間で格差が生じる可能性がある。田中氏は、日本盲人会連合はこれまで実施要綱の継続を求め厚労省に要望したり、日盲社協は各施設に働きかけたりと動いてきたが、さらに働きかけを強めるべきだと訴えた。発表後会場からは「価格差補償自体を知らない自治体もある。地元の団体はもっとアピールを」との意見も出た。また、リハビリテーション部会、就労支援部会、生活施設部会の第2分科会は、「契約社会におけるリスクマネジメント」をテーマに、弁護士の黒嵜隆氏の発表などが行われた。
2日目は、1日目に行われた事業部会と分科会の報告、厚労省障害保健福祉部の寺尾徹氏による「障害者自立支援法を中心とした今後の障害保健福祉施策について」の講演。ボランティアらの表彰式ののち、大会は「点字図書給付事業の運用は実施要綱に添うよう要望する」などの決議を採択し、閉会した。(小川百合子)
昨年10月号の本誌「時代の風」で紹介した「ベルナのしっぽ」の映画が、この秋に公開されることになった。それにさきだち、7月5日(水)東京都内の映画館で、試写会が行われた。
原作は1996年に出版された郡司(グンジ)ななえ氏の同名の著書で、当初はアニメ映画化を予定していたが断念。実写版は昨年8月に完成し、同年秋の東京国際映画祭でも上映されていたが、いよいよ9月から一般公開されることになったのである。
盲導犬訓練所でのベルナとの出会いから、映画は始まる。元永しずく(白石美帆)は病気で24歳の時に失明。治療院に勤める隆一(田辺誠一)と結婚していたが、健常者と同じように子どもを産んで育てたいと強く望んでいた。夢を叶えるためには盲導犬の助けが必要になると考えたしずくは、犬嫌いを克服して盲導犬を手に入れる。しかし、周囲に盲導犬を理解してもらうことは簡単ではなかった。電車に乗ろうとして駅員にとがめられたり、心ないいたずらをされたりもする。悔しい思いを味わいながらも、しずくは懸命に、ベルナがただの犬ではないこと、盲導犬として厳しい訓練を受けてきたことなどを説明する。そんなしずくの努力が実を結び、いつしか周囲もベルナを受け入れ、温かい目で見守ってくれるようになっていく。
やがてしずくたちに男の子が誕生する。隆太(中村咲哉)と名付けられたその子は、両親の愛に育まれ、ベルナにも助けられてすくすくと育っていった。そうしてすべてが順調に行きはじめた頃、ベルナの体に異変が起こる。盲導犬としてこのまま一緒に過ごすのか、リタイアさせて別の余生をおくらせてやるべきか、しずくたちは重い決断を迫られることになる。この映画は、しずくとその家族がさまざまな困難にぶつかりながらも、ベルナとともに未来を切り開き、前進していく姿を、明るくさわやかに描いている。
原作者の郡司ななえ氏は、1996年に本を出版して以来、何とか映像化して盲導犬の理解につなげたいと強く望んでいた。その思いが結実した今、「ベルナが残してくれたものは、はかり知れません。思い出すのがつらいこともありましたが、いい映画になってほっとしています。たくさんの方に観ていただいて、盲導犬をもっと身近に、自然に感じてもらえればと願っています」と心境を語っている。また、実現には至らなかったが、アニメ映画化のために「盲導犬ベルナのお話の会」で集めた100万円を、相当の招待券に換え、全日本盲導犬使用者の会に寄贈したことも、映画に対する郡司氏の意気込みの表れと言えよう。
ここでその「お話の会」についても、少し触れておきたい。この会は、目や体力の衰えから出番が減り、ストレスを感じるようになったベルナに再び活動の場を与え、盲導犬としての誇りを取り戻してやりたいという郡司氏の思いから始まった。幼稚園や小学校などをまわって、子どもたちに盲導犬や視覚障害者について話をするのだが、映画の中でも重要なシーンの1つとして描かれている。ベルナとの最後のお話の会を終えて帰ろうとする時、園児たちが「また来てね」と見送るシーンには、胸を打たれた。それはベルナが「犬」ではなく、ともに生きる「仲間」として子どもたちに受け入れられた瞬間であった。最初は地域の身近な所から始まったお話の会も、ベルナ、ガーランド、ペリラの三代に引き継がれ、現時点で800回を超えている。そしてその活動の場は、国内に止まらず海外にも広がっており、郡司氏のライフワークと言うべきものとなっている。
映画「ベルナのしっぽ」は、9月の渋谷シネ・アミューズでの上映を皮切りに、全国で順次公開される。音声ガイドについては、現在実現に向けて働きかけているところだと言う。記者はあらかじめ原作を読んでから試写会にのぞんだが、場面展開が早いところもあり、登場人物のしぐさや表情などにこめられた思いは、セリフだけでは中々伝わりにくい。音声ガイドがあれば、作品の意図や本質を、より深く味わえるのではないかと感じた。この作品には、視覚障害者に対する大げさな描写や、同情を引いて涙を誘うような場面もない。しずくたちの日常を淡々と自然に描いているところにも、好感が持てた。
上映会場等詳しいことについてのお問い合わせは、る・ひまわり(03-3585-3478)の白坂(シラサカ)さん、林さん、大木(オオキ)さんまで。「ベルナのしっぽ」公式サイトでも、情報は随時更新される。ホームページのアドレスは、http://www.bsproject.jp。(安達麗子)
昨年(2005)10月に発足した(株)ナレッジクリエーション(新城直(シンジョウ・スナオ)社長)は、7月7日(金)横浜市西区高島の同社会議室に60名余の関係者を集め会社事業説明会を行い、その後、会場を横浜プラザホテルに移して会社披露パーティーを行った。
起業に至った経緯を新城社長は、次のように説明した。
同氏は、松本盲学校と横浜市立盲学校で計24年間理療科教員として勤務し、生徒や卒業生と交流する中で、さまざまな課題に直面し、特に2つの出来事が深く印象に残ったという。1つは、携帯電話が普及し始めた頃、普通科の生徒が発した「晴眼者は、携帯電話を自由自在に使っているのに、僕たちは何でできないの」という声。悲しい思いをさせていると痛感した同氏はフットワーク軽くNTTドコモを訪問して何十回となく相談し、後の「らくらくホン」の開発・製品化を促した。
もう1つは、障害者の雇用運動にたずさわる中で、横浜市に点字による一般職員採用試験を実施するように20年以上要望し続けてきたが、いまだに実現していない。「目が見えないというだけで、地元の市役所の採用試験すら受けられないため、生徒たちが希望をなくしてしまう。がんばれば市の職員にもなれるという仕組みを作り上げなければならない」と切実に感じた。しかし、雇用問題を解決するには市職員である盲学校の教員では限界があるという思いが募った。それと共に、「これからは、特に情報支援機器と障害者雇用は密接に関係する」と確信し、「障害者に使いやすい機器の開発、障害者従業員への配慮が保障されない限り、障害者の社会参加は実現できない」という結論に達した。そこで、思いきって、会社という単位で社会参加の実現に尽力したいと考えたのだ。そして、同社の理念と社長の高い志と熱意に共感して、矢崎総業(株)などの企業がビジネスパートナーとして加わってくれたという。
非常勤取締役の1人である高木治夫(株)ネットイン京都社長は、「視覚障害者だけのマーケットにとどまらず、大きく儲けることが、より良いサービスを行うためには不可欠。障害者、高齢者を視野に入れた商品開発を進めていきたい」と抱負を述べた。
次いで、同社と矢崎総業で開発し昨年10月に発売した点字キーボード「ブレッキー」が紹介され、新城社長は開発のきっかけを2つあげた。第1は、最近点字入力のできないパソコンが増え、「点字入力ができないならフルキー入力だけ教えればいい」という意見があり、将来的には点字文化が衰退してしまうという危機感を抱いたこと。第2に、6点だけですべての文字を表現できる点字は、特にパソコン操作には打ってつけで、視覚障害者がこれを用いない手はないと考えたこと。近日中に専用点字ドライバーも完成する予定で、「これさえあれば、ウインドウズパソコンやPDAを点字キーで操作できる。1度使い始めたらブレッキーの良さが分かるはずだ」と、その秘めた実力に自信をみせた。
また、同社はペンタックスと代理店契約を結んでおり、ペンタックスの音声合成エンジン「ボイステキスト」を搭載した新型スクリーンリーダー「Windowsナチュラルボイスナレーター」を現在開発している。その特徴は、画面拡大、マウス位置の読み上げ等、弱視者が使用しやすいようにとことん配慮したこと。さらに、これまでのスクリーンリーダーの音声は、ロボットのように聞こえるが、Windowsナチュラルボイスナレーターは肉声と変わらない声でごく自然に読み上げることである。ボイステキストは、文章を解釈しながら発話できる次世代型音声合成エンジンであり、日本語、英語、中国語、韓国語に対応しており、ウェブ上の情報を音声化して発信できるほか、コンピュータや家電製品等に組み込むことができるという。
本年6月より同社ではエプソンダイレクトショップと提携し、「パソコンシェルジェサービス」(1万5,750円から)を開始した。サービス内容は、同社スタッフと電話で相談しながら、エプソンダイレクトショップの商品から自分にあったパソコン及び周辺環境をそろえることができる。また、パソコンの設定、修理などのサービスも行っている。詳しくは同社、電話・ファクス045-307-9300、URL http://www.knowlec.com/へ。(戸塚辰永)
本誌6月号の「サッカーワールドカッププレビュー」で「夢酒」が縁起でもない予想をたてたため、日本代表は予選で惨敗。また、「24年ぶりに優勝を狙っているのがイタリア」(夢酒)との予想も的中するつまらなさで、幕をとじました。フランスの国民的英雄ジダンの強烈な「頭つき」ばかりが印象に残り、すっきりと大団円とはいきませんでしたが、イタリアは熱狂し、発炎筒の赤や青の煙で包まれ、国旗はうち振られフランス革命を描いたドラクロアの名画そのままの風景が展開されました。むろんこれは国旗の「緑」を「青」に取り違えた錯覚ですが、ラテン気質は同じで、おそらく200年前からなんら変わっていないと確信させる一事でした。
ナレッジクリエーション事業説明会で毎日新聞の岩下恭士(ヤスシ)サイバー記者(元『点字毎日』記者)と一緒になった本誌戸塚記者が、当出版所の新所長の名をだすと彼はびっくり仰天。「写真部長も歴任された迫さんの点字との取り合わせが意外だった」とのこと。一時は、総合メディア事業局企画室で、岩下記者の上司でもあり、「大変お世話になりました」としみじみ彼は語ったそうです。(福山)
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