THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2006年4月号

第37巻4号(通巻第431号)
編集人:福山 博、発行人:竹内恒之
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp
―この紙はリサイクルできません―

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「バイアスロン(biathlon)」

 ギリシャ語で「2」を意味するバイと「競技」を意味するアスロンをつなげた造語で、クロスカントリースキーにライフル射撃を組み合わせた複合競技。従来の7.5km(ショート)に加え、トリノでは12.5km(ロング)も行われ、3月11日に行われたロング女子視覚障害で小林深雪選手(東京)が優勝した。ロングの場合は4回射撃を行い1発はずすと、1分が自分の実際に走ったタイムに加算される。視覚障害者の選手は、ヘッドフォンをつけて的に銃口が近づくと、周波数が上がる音響式スコープによって2.5cmの的に10mの距離から狙いを定める。銃は、長野パラリンピックまではエアガンを使っていたが、ソルトレークからビーム銃に変わった。スキーを急げば呼吸がみだれ、射撃の正確さが損なわれるので、それをどう組み合わせるかがこの競技最大のポイント。

目次

第14回「ヘレンケラー・サリバン賞」候補者推薦のお願い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(緊急座談会)危ぶまれる盲人ホームの存続と展望
 (大橋由昌、与那嶺岩夫、藤井亮輔)
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4
小林深雪さんトリノで復活! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
点字への想いを熱く語る中失者の発言に感動〜シンポジウムのあらまし ・・・・・・・・
17
(特別寄稿)閉校になった新潟県立高田盲学校(西條一止) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
20
研究室から:鍼灸の有用性を求めて(酒井友実) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
25
感染症研究:発生周期が崩れてきたマイコプラズマ肺炎 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
万華鏡:人間社会に引き戻せ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
水原紫苑の短歌教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
知られざる偉人(エキストラ):バランタン・アユイ協会訪問記  ・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
コラム・三点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
大相撲:相撲界はトリビアネタの宝庫 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
教科書の触図を考える〜第2回教科書点訳会セミナー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
48
(特別寄稿)音声ガイド付作品を観て考えたこと(岩屋芳夫) ・・・・・・・・・・・・・・・・・
51
海外マッサージの現状から日本を見る〜IAVIがシンポジウム ・・・・・・・・・・・・・・・・
55
ブレーメン:ドイツで開業を目指す ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
時代の風:人工網膜が光を知覚 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
伝言板:加納洋中・四国コンサート ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

第14回「ヘレンケラー・サリバン賞」
候補者推薦のお願い

 「ヘレンケラー・サリバン賞」は、視覚障害者の福祉・教育・文化・スポーツなど各分野において、視覚障害者を支援して下さっている「晴眼者」にお贈りするものです。
 これは、視覚障害者は、いろいろな面で晴眼者の方々からご支援を戴いていることから、その晴眼者の献身的な行為と精神に対し、視覚障害者の立場として感謝の意を表するとの趣旨で当協会が平成5年度に創設、今年度で第14回目となります。なお、同賞の名称は、ヘレン・ケラー女史と同女史を生涯支え続けたアン・サリバン女史の両氏の名に由来します。多数の方々のご推薦をお待ちしております。
 選考は、視覚障害者によって推薦されました候補者の中から、当協会委嘱による視覚障害者の選考委員会によって、検討・決定いたします。
 推薦受付期間は、平成18年6月末時点(必着)まで。第14回受賞者名は、本誌『点字ジャーナル』10月号で発表し、受賞者には本賞(賞状)並びに副賞(盾)をお贈りします。
 候補者の推薦書をご希望の方は、当協会「ヘレンケラー・サリバン賞事務局」(〒169-0072東京都新宿区大久保3-14-4、電話03-3200-1310)までご請求下さい。

(緊急座談会)
危ぶまれる盲人ホームの存続と展望

 《本年1月30日、日本盲人会連合(日盲連)あはき協議会副協議会長の渡辺哲宏(わたなべ・てつひろ)氏を世話人代表に「盲人ホーム活性化懇話会」(以下、懇話会)が発足した。これに対して「いまさら盲人ホームをいじくってどうするんだ」という声も仄聞する。そこで、なぜ今盲人ホームなのか、懇話会は何を目指すのかを、関係者に忌憚なく話し合っていただいた。懇話会から事務局長の大橋由昌(おおはし・よしまさ)さん(朝日新聞東京本社ヘルスキーパー)と、世話人のお一人で仕掛け人でもある与那嶺岩夫(よなみね・いわお)さん(国リハあはきの会事務局長)、そして懇話会外からサポーターとして藤井亮輔(ふじい・りょうすけ)さん(筑波技術大学助教授)に加わっていただいた。司会は本誌編集長福山博》

障害者自立支援法と盲人ホームの危機

司会:まず最初に、なぜ今盲人ホームが問題で、懇話会を組織する必要があったのか?お聞かせください。
与那嶺:今から十数年前にあはき師(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)試験に実技がなくなって、国家試験になりました。そしてそれから4、5年たった頃から視覚障害あはき師の腕がガタッと落ちてきたんです。そこで、どこかで腕を磨く必要が生じ、国リハあはきの会は、国立身体障害者リハビリテーションセンターに研修センターを作ってくれと運動を起こし、一時は病院長を中心にプロジェクトチームもできました。ところが、国の財政状況が思わしくなくて、新規事業をやる余裕はないということで、潰れたんです。それで次に浮かびあがったのが盲人ホームだったんですね。しかし実態を調べてみたら、中には点字図書館とか、リハビリ施設というところもあって驚いたわけです。そこでなんとか盲人ホームをあはき実技の研修施設として位置付けられないかと厚労省に要望しました。そこへ「障害者自立支援法」(以下、支援法)があがってきて、第3章「地域生活支援事業」の項目に「地域活動支援センター」というのがあるので、厚労省はその枠の中で盲人ホームを考えようと言いだしたんです。そして治療室がいくつかあったら、そのひとつを地域活動支援センターとして使い、手話でもやるのかって聞いたら、そうだというんですね。
大橋:いま話に出た転用の問題ですが、補足するとあはき師法で施術所として届けているわけだから、転用はあはき師法違反になるのではないかと突っ込んだら、担当者はひどくあわてていました(笑い)。
与那嶺:施設を効率的に使い、ニーズのある方に優先的に使わせたいというのは、理にかなったことです。だけど、この支援法自体が自立というものを定義していません。社会的な自立とか生活の自立というけれど、本当は自立の大前提は職業的自立ですよね。ところが授産所とか作業所というのが、障害者の職場という認識でしょう。うっかりしていると、何円、何十円という単価の仕事をしている授産所と同じレベルで、あはきという国家ライセンスを持っている我々も論じられかねないんですね。
大橋:この支援法に対する各障害者間の捉え方の差ですが、視覚障害者側からみれば、「自立」とは職業的自立を果たすということです。ところが、重度の肢体不自由者などの労働観の中には、「生きること自体が労働なんだ」という主張さえあるんです。目をパチパチさせ、意識的にパソコンを使うというのも、労働になるんです。そういう意味で、私たちと自立に対する概念が違っているので、他の障害者団体の多くは、「自立支援給付」(第2章)の方に力を入れるわけです。
司会:そこで、与那嶺さんがいわれた定義がなされていないという問題が出てくるわけですね。
与那嶺:そうです。しかし、むしろ定義は意図的に避けたんですよ。「自立支援給付」というのは義務的な経費で、生命という人間存在の根幹部分から、人間らしく生きていくということを支える自立なんですね。一方「地域生活支援事業」というのは、もう一歩進めて就労支援などを含めて移動・コミュニケーション・相談支援とかね、そういうものがあるから、より活動的な部分なんです。だからこれを定義しなかったのは、支援法の第2章と第3章との違いなんです。そして、このままでは盲人ホームは、この支援法でますます視覚障害者が施策の外に追いやられる象徴的な例になりかねないんです。

盲人ホームとは?

与那嶺:盲人ホームというのは、基本的には職業訓練的なスキルアップの研修所という機能を持っていたけれども、よくよく調べたら大正時代からその根っこはあるんですね。昭和37年に「厚生省社会局長通知」としてだされたときもすでに5つあり、それを追認した形なんです。例えば杉光園は昭和34年から盲人ホームとして東京都が助成してきました。
大橋:1993年に日盲社協の盲人ホーム部会で、萩原善治郎(はぎわら・ぜんじろう)部会長がやった調査というのがあります。誰も見向きもしないから、お蔵入りになっていたのを、国リハあはきの会が掘り出したもので、当時盲人ホームの平均月収は11万円でした。それが、2003年の厚労省の調査では6万円と半減しています。無免許者と晴眼者の激増による悪影響が、ここにもはっきりと出ていますね。視覚障害あはき師は、自動車やバイクを運転できませんから、晴眼業者に比べて弱いのはフットワークなんですね。この大きなハンディを埋めるためにも、高度な技術に挑戦し、スキルアップする必要があるんです。また、盲学校を退職した理療科の先生などの良き指導者を得て、新たな共同経営のビジョンをチャレンジする場として、盲人ホームを活用したいんですね。
藤井:卒業して開業している人達にアンケート調査すると、生涯研修の場が欲しいという答えが非常に多いんです。でも、実際にはいろんなところの勉強会とか研究会に行ってみると、視覚障害者はあまりこないんだけれども、ニーズは非常に高いんです。盲人ホームは、局長通知とはいえ公的に認められたそういう要望を満たす唯一の場です。これは絶対に無くしてはならないですね。もし、一旦なくなったら、二度と復活することはないでしょうからね。
与那嶺:昭和37年の局長通知に面白い文言があるんですよ。「盲人の日本の中での分布状況を見て、盲人ホームを配置する」。分布というとなにやら植物みたいですね(笑い)。そうなっているから全国にあって、九州とか沖縄にもあったんですよ。だから懇話会としては、局長通知の趣旨を生かした実施要項を都道府県、市町村に出させるということですね。
大橋:ちなみに現在全国には盲人ホームが27ヶ所ありますが、そのうち日盲社協の就労支援部会に入っているのは13ヶ所です。
司会:以前は全施設が入っていたと聞いていますが、ということは辞めていったわけですか?
大橋:そうですね。それだけ関心がないのと、上から自動的に施設にお金がおりるから、それでいいという考え方で、危機感を感じていないんですよ。懇話会の世話人のお一人で広報担当の篠島さん(日本盲人職能開発センター篠島永一〈シノジマ・エイイチ〉所長)が、いろいろ呼びかけたんですが、ほとんど反応がないというのです。
司会:篠島さんはどういうお立場で関係されているのですか?
大橋:日盲社協の就労支援部会長が篠島さんなんです。以前は「作業・三療部会」といっていましたが、そこには盲人ホームも入っているんです。
与那嶺:あはきの会が日盲連と日盲社協に呼びかけて、やろうとなったわけです。ただ、懇話会には、みなさん個人の資格で参加していただいているわけで、それぞれの組織・団体を代表しているわけではないんです。
司会:話の腰を折るようで恐縮ですが、そうはいっても盲人ホームに対する否定的なイメージが盲界にもありませんか?
大橋:盲人ホームに関する誤解の一番大きいのは収容型なんですよ。もちろん本来の目的はあはきの研修だったんですが、昔は今と比べれば簡単にとれましたから、あんまの免許はとったものの食えないという人がいて、そういう人を収容したということが歴史的にあったんですね。それで現在も、「盲人ホームを活性化させる」というと、なにをいまさら、という声があがるんですが、活性化というのには深い意味があるんです。
与那嶺:それでね、活性化というからには盲人ホームが停滞しているという現状認識があるわけですね。しかし、これは盲人ホームだけでなく、あはき業も同じように停滞しています。その原因は、先ほどからいっているように実技不足なんですね。あはきという素晴らしい仕事を視覚障害者が自ら放棄してしまって、藤井先生ではないけれども、外国の人が注目してくるという。どこに根本的な間違いがあったのか、今考える必要がありますね。
藤井:職業自立という観点からみたら、あはきは他に類を見ませんからね。素晴らしい職業ですよ。私は盲人ホームのことについてはあまり知りませんが、この懇話会ができたことに関しては拍手喝采なんです。

期待される盲人ホームの役割

与那嶺:盲人ホームの停滞といったけれども、一方では埼玉県深谷市や福井市のように、この4月から新しく盲人ホームを立ち上げる動きもあります。懇話会の世話人でもある茂木さん(日本失明者協会茂木幹央(もぎ・みきお)理事長)もそのお一人で、自信あふれたスタートになりそうですよ。だからこれは潜在的なニーズはあるし、国も現在は盲人ホームを潰そうという方向ではなくて、助成していく方向ですから、新しく立ち上げることも支援法の中で可能なんです。
藤井:盲人ホームというのは昭和10年代に晴眼者の大量進出で大揺れに揺れ、盲人になんとか働く場をということで、国に「公設の按摩派出所」を作れという運動がありました。昭和20年代も盲人の働く場がない、また昭和30年代になると医業類似行為の業者の延長が、昭和33年、36年と行われ、昭和39年に医業類似行為の終身業が決定し、そのときに交換条件でできたのがあはき師法第19条です。その頃に社会的な一つの施策として、盲人ホームができたのではと思っています。
与那嶺:おそらく、そのとおりなんですよ。由来ではっきりしているのは長野県で、ある篤志家が、腕の悪い仲間を少し鍛えてやろうとしたのを自治体が応援した、そういう例が、懇話会の副代表である山口さん(関西盲人ホーム山口規子〈ヤマグチ・ノリコ〉施設長)のところもそうじゃないでしょうか。
大橋:そうですね。あそこも古いですからね。
藤井:昭和36年に国民皆保険ができますね。そのあたりから、病院の基盤が急速に拡大・整備されて、30年代末から就職がしやすくなったので、盲学校は盲人ホームに関心がなくなって、就労・雇用が困難な人が行くところになったんですね。理教連は鍼灸のレベルを高めるというものすごい熱意でできて、ようするに資質向上ですよ。その一方で食えない人を救済するために盲人ホームができたんです。そういう中で、お金がついていますから、別の目的に転用されたり、ということが平然と行われるようになり、もう有名無実になってしまいました。ですから、私が先ほど拍手喝采だといったのは、従来型の福祉としての盲人ホームの機能ではなくて、試験から実技が外されたため学校は出たけれども使い物にならないという人達が、本当に増えてきている。そういう人達の再教育の場、これが1番目。2番目はヘルスキーパーができたり、介護保険で機能訓練の道が開けたりしたけれども、盲学校ではそのような専門教育をやっていないので、その教育の場。非常に深刻なのは、あはきの免許を持っているのに就職できていないのは、資質とか技術云々ではないんですよ。
司会:いま流行の「ニート」ですか?
藤井:いやいや、ニートじゃない(笑い)。働く意志はあるんですが、協調性がなくてうまく人間関係を作れないとか、コミュニケーションができないという問題で、免許は持っているけれども、働く場がないのです。多分全体の15%くらいいると思いますよ。そういう人達の再訓練の場として、盲人ホームが考えられないかと思うんです。
大橋:全体的に見て中途失明者の方が成功例が多いんですよ。やっぱり一般社会ですでに訓練されていますからね。一方、小さいときから盲学校で学んだ人は社会人としての教育が不足しています。これは、盲学校の先生が悪いわけではなくて、とにかく人数が少なくて集団的な訓練の場として成り立たないんですね。また、寄宿舎というのは学校教育法の関連だから、寮母先生が料理の指導とか、洗濯の指導とかできないんですね。要するに管理はするけれども、日常生活の指導は法的にできないんです。
与那嶺:私は社会性という観点で捉えることに疑問を感じます。というのは何が社会性かわかりにくい。例えば今の子どもが挨拶ができない、他者とのコミュニケーションができないというのは学校教育ではなくて、家庭教育なんですね。
大橋:そこが与那嶺さんたちのように国リハを出た人達と、私のように盲学校出身者の温度差なんですね。特に地方だと小学校1年生から寮に入っているんです。そのような子ども達に家庭教育というのは、事実上できないんですよ。
与那嶺:なるほどね。でも資質向上といっても、もともと資質が適性でない人は向上させようがないからね。むしろ他の方法を考えた方がいいんです。あはきは今国民的なニーズがすごくあり、雇用という観点で考えると自営開業、治療院勤務、特養の機能訓練指導員、病院のマッサージ師、ヘルスキーパーの5つがあります。それにみあった専門訓練を、盲人ホームが担うように発展すればいいなあと思っています。
大橋:盲人ホームが対象とすべきなのはあくまでも、あはきの国家試験に合格した人ですから国家試験に合格できないような人々について、盲人ホーム活性化懇話会に期待されてもこまります。これはまた別途、盲界あげて考えなければならない緊急な問題ですね。
与那嶺:2003年に厚労省が盲人ホームの実態調査をやって、これは研修の場ではなくて就労の場になりかけているなと、この間の説明会では、その実態を容認したうえで雇用の場にしようではないかと提案しているんですね。おそらく盲人ホームは研修の場と、就労の場に分かれていくんだろうと思います。
大橋:懇話会の事務局長の立場でいいますと、まだ参加している施設は少ないですけれども、どちらかというと就労型の要求も強いんです。これからの運営なんですが本当に就労型にしていくのか、それとも研修を基盤にしていくのか? これは結論がだせる問題ではないので、両立併記のような形で研修を中心として、就労型にも対応して行こうというような非常にファジーないい方をするしかないんです。
与那嶺:ここは誤解のないように強調しておきたいのですが、国の動向を見ながら、国と相談しながら進んでいる会であるということですね。厚労省にいっているのは雇用型もいいけれど、4、5人で共同でやっている治療院に補助金を出すならば、町場の一般開業者は嫌になっちゃうってね。
司会:不公平だということですか?
与那嶺:そうです。この件については、よく申し上げているので、国もよくご存じですけどね。
藤井:これは基本的には市区町村の事業になるわけですか?
与那嶺:基本的にはそうですね。
藤井:そうすると、おそらく実態からしても盲人ホームというのは研修型、就労型の二本立てで選べるものになっていかざるをえないと思うんです。その時に何を選ぶかというとまさに市区町村の裁量になるわけですね。行政にどういう要望があがってきたかによって、就労型もできるし、研修型もできるし、研修といってもいろんなレベルがあると思うんですよ。資質向上と機能訓練をやる、ヘルスキーパーをやるというニーズがあったり、もう少し低レベルのものもあるかも知れませんね。
大橋:地域差でね。
藤井:そうそう。そこで懇話会としてもあまり狭くこういう機能を求めていくんだということではなくて、今の時代に併せて自由度を大きく考えてほしいですね。
大橋:盲人ホームに対する誤解もあって、地元業団体の反発がものすごく強いようです。これは世話人のお一人でもある桜井先生(長野県視覚障害者福祉協会桜井俊二=さくらい・しゅんじ=会長)が繰り返し言われるんですが、就労型にすると、俺達のところには補助金が無いのにあそこには出ているということに必ずなると。つまり盲人ホームという共同経営のイメージで、補助金も出るとなれば反発もありますよね。そこで私は盲人ホームがある種のコーディネーターを務めたらと思っています。法人格を持った盲人ホームが介護予防の窓口になって、そこを地元の業者に振り分けたりという形もまた、一つのビジョンとしてあり得るのではないですか? そういう盲人ホームが社会福祉法人や地元の業者を巻き込んで、情報収集機関であり、「就労の口入屋」という機能も果たせるぐらいになれば、地元業者の反発もなくなると思うんですよ。
藤井:外野席で見ているようで、大変恐縮なんですが、やはり具体事例を作ることが大事だと思いますね。つまり、懇話会ができて、いい動きだし、私なんかも協力したいと思っているのですが、いくら旗振って、いいビジョンを出しても、それをどこかで、具体的な形にしないとね。
司会:それはどこかの盲人ホームでモデルケースを作るということですか?
藤井:そうそう、そうしないとピンとこないんですね。
大橋:そういう意味では、この4月から2ヶ所盲人ホームが発足するわけですから、特に埼玉県深谷市の茂木さんのところは、規模も大きいようなので大いに期待しているところです。また、いろんな議論はありますが、まずは懇話会が一石を投じたところが大きいと自画自賛しているところです。最後に本日紹介しきれなかった懇話会の世話人を紹介します。練馬区視覚障害者福祉協会の岩松丈彦(いわまつ・たけひこ)会長、日盲連時任基清(ときとう・もときよ)副会長、盲人ホーム「杉光園」中尾忠雄(なかお・ただお)事務局長です。また、2月20日の第2回の懇話会には、全鍼師会小澤繁之(おざわ・しげゆき)視覚障害局長と杉並区視覚障害者福祉協会西山春子(にしやま・はるこ)会長が参加されました。
司会:本日はどうも長時間ありがとうございました。

教科書の触図を考える
—— 第2回教科書点訳会セミナー ——

 2月27日(月)日本点字図書館で、全国視覚障害児童・生徒用教科書点訳連絡会(田中徹二会長)主催の「平成17年度第2回教科書点訳会セミナー」が開かれ、教師、施設・団体職員、ボランティアなど約60名が参加した。
 今回は「触図」をテーマに、筑波大学附属盲学校高村明良教諭、広島大学大学院教育学研究科牟田口辰己助教授、日本点字図書館図書制作課和田勉主任の3名が講演し、その後参加者の意見交換が行われた。
 今回は文科省著作点字教科書の編集委員でもあり、障害当事者でもある高村氏の講演を中心に報告する。
 編集委員は、主に盲教育関係者がなり、教科書の選定から、子供たちに分かりやすいよう加筆・修正し、点字教科書を制作している。高村氏はその経験を基に「算数・理数系教科書における触図について」と題して講演。まず、教科書の利用者は未発達の児童で、小学校に入ったばかりの児童の触察レベルは三角形の1周をたどれないくらいだという。そこで著作教科書の算数1年には触図のみの教科書を1冊つけている。そして中学3年までにグラフや表を晴眼者と同じくらい理解できるように養成していくのである。高村氏は「重要なのは分かる図、触る力を伸ばす図を作る工夫だ」と述べて、参加者にクイズを出した。これは、見えないよう表紙の付いた資料に手を差し込んで触察し、中に描かれた2つの触図を当てるもの。最初は両方とも同じ円に思えたが、何度でも触るうちに左側は円と確信できたが、右側はよくわからなかった。参加者で「円と八角形」と答えて、見事正解した人がいたが、それは少数派であった。高村氏は「見ることとは逆に、触察は部分から全体をイメージすること」と解説し、「保護者はよく墨字教科書そのままを点訳して欲しいというが、それでは子供たちが分かる図にはならない。何を学ばせたいのかという意図をくみ取り、なおかつ楽しさも失わないように編集」することが重要と力説。算数1年には仲間づくりという章があり、その導入で擬人化したフルーツが公園で遊んでいる絵を例に、「ここで重要なのはグループ分けをすることなので、ブランコなど余計なものは省略し、簡略化したフルーツの図を並べた」と説明。また、「最低限、子供たちが使う道具は知っておいて欲しい」と述べ、視覚障害児用のモノサシと分度器でその触図が実際に計れるのか、常に考えながら制作する必要があると指摘。最後に最も注意しなければならないのは、子供たちが分かった気になっていないか、それを見極めることだと語り、「発達を保障する点字教科書の作成を」と強く訴えて、講演を締めくくった。
 続いて牟田口氏の講演「通常の学級で学ぶ盲児の点字教科書と盲学校用点字教科書の比較」が行われた。日本特殊教育学会で発表した論文を基に、特に立体図形に絞って、文科省著作教科書とボランティア作成のAとB3種を比較した。最も処理が違うのは墨字教科書で多用される見取り図。著作教科書は全く使用されておらず、上からと正面から見た図で代用していた。一方、Aはそのままレーズライターで、Bは展開図を併記するものもあった。他の図では「エーデル」という点図ソフトやテープの貼り込みなどで作られたものもあるという。これではどれがよいかという問題をさておいても、子供たちの触察の力にばらつきが出てしまうのではないだろうか。また参考として、滋賀県立盲学校長尾博教諭による『パソコンで仕上げる点字の本&図形点訳 ―― これなら教科書だって点訳できる』という本が紹介された。この本が今のところ教科書点訳の唯一の指導書だという。
 最後の和田氏の講演「海外における触図の動向について」は、海外の触図を参加者に回覧しながら、主に「タクタイルグラフィクス2005」という英国・バーミンガムにおける会議に参加した経験を語った。欧米の案内板やサーモフォームの地図は、分かりやすいものもあれば、同一の触図の説明に縦書きと横書きの点字が書かれているものもあり、玉石混交であった。
 意見交換では、「天気図はどうしたらいいか」「地域の先生と連携がとれない」「まだ教科書が入手できない」など、制作に際しての深刻な質問が、参加者から次々飛び出した。なかには、「この会の趣旨は?」との問いかけもあったが、それぞれよい教科書を作ろうと、意欲的に試行錯誤を重ねる現状がくっきり浮かび上がった。(小川百合子)

■ 編集ログブック ■

 巻頭の緊急座談会「危ぶまれる盲人ホームの存続と展望」の中で、大橋さんが「盲人ホームを活性化させるというと、なにをいまさら、という声があがる」とため息をついておられますが、実は私も「なにをいまさら」と考えた一人でした。与那嶺さんから噛んで含めるような説明を受け、近々有楽町のガード下の「居酒屋」で会合があるということを聞き、急遽ICレコーダーを片手に乗り込んだのでした。しかし、まだことの重要性がよくわかっていなかったようで、誌面は8ページ分しか確保しておりませんでした。そして、実際に文字に起こしてみると本誌25ページ分以上にもなり、それをギュッと12ページにまとめたのでした。そのあおりで、誌面が全体にやや窮屈になったかも知れません。ところで、「居酒屋」というのは一般名詞ではなく、屋号そのもの、つまり固有名詞だったのには驚きました。有楽町の東京交通会館の向かいには「居酒屋」という名前の居酒屋があり、ガード下でしたが、思いの外静かでした。が、それでもレコーダーを再生すると、低くゴトンゴトンという列車の通過音が、BGMのように聞こえました。
 指田忠司さんは、19年ぶりにバランタン・アユイ協会を訪問されたとのことですが、私が訪問したのは1996年の4月ですから、ちょうど10年前です。帰国後、仏語ができないので英文で失礼しますと断って礼状を書きました。するとその返事が日本語で来て、フランスの文化的エスプリ(精髄)に、顔を赤らめながら触れたことを懐かしく想い出しました。(福山博)

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