8月9日、小泉首相は谷垣財務大臣と会談し、2006年度予算の概算要求基準(シーリング)で、公共投資関係費を前年度比3%削減し、高齢化などで8000億円程度見込まれる社会保障関係費の伸びを2200億円抑制するよう指示した。
各省庁が次年度予算で使いたい歳出額の見積もりのことを概算要求といい、例年8月末までに財務省に提出する。ただ、各省庁が安易な要求をして予算規模が膨張するのを防ぐため、財務省はそれに先立ち、要求額の上限となるシーリングを策定。政府は、2006年度予算のシーリングを8月11日午前の臨時閣議で閣議了解し、一般歳出は47兆5430億円とした。なお、シーリングとは英語で「天井」の意味である。
7月23日(土)、戸山サンライズにおいて、日本盲人職能開発センター主催の「2005全国ロービジョン(低視力)セミナー――視覚障害者の就労を支える」が開催された。当日は、基調講演・ポスターセッション・パネルディスカッションが行われ、視覚障害当事者・企業関係者・盲学校教諭など約300人が熱心に耳を傾けた。
午前の基調講演では、輪島忍(わじま・しのぶ)氏(日本経済団体連合会)・水戸常博(みと・つねひろ)氏(東京労働局)が、今年改正された身体障害者雇用促進法や、雇用の現状について述べた。水戸氏は「障害者にどんな仕事が出来るのか、まだ知らない企業も多い。ハローワークが雇用事例なども挙げながらその点を説明したり、職場介助者制度・各種助成金などを紹介することで雇用はもっと伸びるのではないか」と語った。
昼に行われたポスターセッションのテーマは「当事者が能力を発揮するために」。活字読み取り装置や拡大読書器、画面読み上げソフトや画面拡大ソフトなどの発達で、視覚障害者にも墨字処理が可能となり、その結果様々な職に就くことが出来るようになった。当日は、森ビル(株)でヘルスキーパーとして働く田畑富立(たはた・よしたか)氏(全盲)、東芝セラミックスで経理事務を担当している森政和(もり・まさかず)氏(弱視)、ジャイカ沖縄国際センターで海外からの技術者の受け入れや、日本での研修を企画している照屋江美(てるや・えみ)氏(弱視)、(財)郵便貯金振興会で厚生年金基金関係の基礎データの入力や確認作業を行っている佐藤利昭(さとう・としあき)氏(弱視)など6人の視覚障害者がそれぞれの職場体験を語った。
「当事者の能力を活かすために」と題された午後からのパネルディスカッションでは、視覚障害者を雇用している企業の人事担当者がその体験を語った。
人材派遣会社の(株)リッチフィールドは、今年2月に視覚障害2級のNさんを雇用した。しかしそこに至るまでには様々な苦労があったという。人事担当の廣瀬享哲(ひろせ・たかのり)氏は、「ハローワークの指導で障害者雇用に取り組むこととなったが、どのようにして人材を見つけたらよいのか全く分からなかった。障害者用の求人雑誌やネットでの募集、ハローワークや各種学校への問い合わせ、取引先や知り合いに声をかけるなどしてみたが成果は得られなかった。企業面接会に参加しても1人の面接希望者もなく、2回目にしてやっと応募者があった」と語った。しかし残念ながらNさんの視力では、当時会社側が考えていた経理事務の仕事は補助者なしには無理であった。そこで郵便物の仕分けや発送、全社員の名刺の印刷、事務用品の受発注、社員の休暇の管理、給茶機の管理などNさんに出来る仕事を洗い出し割り当てることとした。またNさんの採用に当たっては、社長から役員・幹部・配属部署に対し採用の経緯と意義について説明があり、このことがNさんへの社内の対応によい影響を与えたと語った。
貸しビル大手の森ビルは、やはりハローワークから指導を受け障害者雇用に踏み切ることとした。人事担当の椎橋政美(しいばし・まさみ)氏は、「最初は雇用のイメージがわかなかったが、リハビリテーションセンターや盲学校、養護学校などを見学するうちに、工夫次第で障害者も働けるのではないかと思うようになった」と言う。そんな折ヘルスキーパー制度を知り、その導入を考えるようになった。盲学校から実習生を迎え、マッサージ体験をした社員にアンケートを採ったところ、導入を支持する声が強かったので全盲と弱視のヘルスキーパー各1名を採用した。また視覚障害者の声を経営に生かすことも考えた。森ビル本社は自ら再開発を手がけた六本木ヒルズ内にあり、特に全盲の社員が通勤経路やビル内で危険を感じた場所についてはその改善を心がけるようにしている。
昨年発表された「障害者雇用実態調査」では、視覚障害者の雇用数は前回より2万6千人も減少したという。だがその一方で、リッチフィールドや森ビルのように、雇用の意志はあるがどう取り組んでよいか分からなかったり、人材探しに苦労した企業があるのも現実である。働く意志のある障害者と、雇用の意志のある企業をどう結びつけていくかが今後の雇用促進のカギになると思われる。ところで、今回のセミナーには多くの企業関係者の参加も見られた。その点でも大変意義のある会になったと思う。(成瀬有希子)
7月24日(日)午前10時から、視覚障害情報機器アクセスサポート協会(アイダス)の研修会が、東京都新宿区の東京都視覚障害者生活支援センターで行われた。会場には、パソコン指導に取り組んでいる関係者やボランティア、視覚障害者のパソコンユーザーなど、約60名が集まった。
今回のテーマは昨年に引き続き、「多様化するパソコン環境の中での指導とは」であり、今年は「その2」として多様化に焦点が絞られた。午前中の「本音で生討論」ではパソコン訓練、就労・復職支援について、3人の専門家が現状を報告。その後、架空の訓練生を想定し、指導プランを立てて意見交換を行った。
まず、視覚障害者のためのパソコン教室スラッシュ代表圓山光正(まるやま・みつまさ)氏は、「利用者の中には、MS-DOSとウインドウズを使っている人がおり、トラブルの内容も多岐に渡っている。指導者はソフトについてはもちろん、利用者のパソコンの状態も把握した上で適切な助言をしなければならないので、全てのトラブルに対処するのは困難」と現状を述べ、「サポートを充実させるためには、一人でも多くのパソコンボランティアの養成が急務である」と語った。
次に就労の立場から、日本盲人職能開発センターの井上英子(いのうえ・えいこ)氏は、「パソコンの技術を身につけて就職しても、スクリーン・リーダーが読み上げないため社内のネットワークにアクセスできず、必要な情報を取り出せないことがある。これを解決するには、就労前に企業内で実習をし、視覚障害者が使用するソフトの特性を理解してもらい、周囲の援助を受けられるような環境を作ることが大切である」とした上で、「訓練施設も企業と連携し、利用者をフォローしていくような柔軟な対応が必要」と語った。
また、日本ライトハウスの津田諭(つだ・さとる)氏は、「就労や復職後の支援でもっとも大切なのは、企業のIT環境への対応である。これにはかなりの専門性が要求されるので、関わることのできる人材も限られる」と語り、「ユーザーのニーズに応えるためには基礎から専門に至るまで、幅広い知識を持った指導者の養成が不可欠であり、いかに魅力あるサービスを提供していけるかが今後の課題である」と指摘した。
続いて行われた討論でもっとも議論されたのは、中途失明者のパソコン訓練におけるスクリーン・リーダーの選び方と到達目標の設定についてであった。結局、スクリーン・リーダーは使用目的やソフトの特性によって選び、目標については最初から決めず、利用者が興味を持ったことをできるように導くという意見が主であった。
午後の話題提供はパソコン指導から離れ、新型の携帯型拡大読書器の使用に関するユーザー調査、スクリーン・リーダーの詳細読みの分析、新たな触覚教材の導入及び開発の試みについての発表が行われた。
拡大読書器について、高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センターの岡田伸一(おかだ・しんいち)氏は、「弱視者の間では、携帯型読書器のニーズが高まっているが、字を書くというよりは読書に使われているのが現状。性能の向上も課題」と語った。
スクリーン・リーダーの詳細読みについては、95リーダー、PCトーカー、VDM100Wを用い、教育漢字を除くJIS第1水準の漢字(1,959文字)について分析した。神奈川県総合リハビリテーションセンター七沢ライトホームの渡辺文治(わたなべ・ぶんじ)氏は、「スクリーン・リーダーの詳細読みには様々な工夫が凝らされているが、説明が曖昧で該当する漢字を選ぶのが困難だったり、一度聞いただけでは理解できない言葉もあった」とした上で、「分かりやすい詳細読みを作るには、スクリーン・リーダーの間で説明を統一していく必要があるのではないか」と提案した。
学校教育における触覚教材の導入について、国立特殊教育総合研究所の大内進(おおうち・すすむ)氏は、「近年グラフィック情報が重視されるようになり、立体的な図を作成するイギリス製の真空成型器が注目されている。これはプラスチックのシートを100oの高さまで成型できるので、立体的な図の把握に適している」と語った。筆者も実際にいくつかサンプルを触らせてもらったが、高さがはっきりしているので、児童・生徒は直感的に立体の概念を理解できるのではないかと感じた。また、現在研究中の3次元の造形物作成システムを活用すれば、絵画の立体的な複製が可能になり、視覚障害者の絵画観賞が身近になると期待されている。(安達麗子)
8月2日、長野市のメルパルク長野で理教連(日本理療科教員連盟)定期総会が行われた。2年目を迎えた緒方昭広会長は、「特別支援教育など大きな問題が山積している。また、医療教育が動いている中で、あはきを福祉として捉えていてはいけない。今後あはきはどうあるべきか?」と問いかけ、このような問題に対して多くの意見が出されることを訴えた。
理教連の目下の最優先課題は特別支援教育であるが、この問題は文科省など関係機関でも実施に向けて協議されている。しかし、特別支援教育が実施された場合、盲学校やあはき職業教育にどのような影響が出るのかは不透明な状態だ。また、国、地方自治体は厳しい財政状況にあり、就学奨励費や高等部職業教育整備などに十分な予算を割いてくれるかも問題。そこで、理教連では、議論が停滞状態にある特別支援教育について要望をまとめ、次期臨時国会へ請願提出を行う意向を示した。請願提出により、国会や内閣府に盲学校の現状を明らかにする目的もある。請願の1つ目の柱は、特別支援教育に関して、理療科教員など専門家を含め、十分に議論を行うこと。2つ目は、障害に応じた教育のできる盲・ろう・養護学校の存続、教育費国庫負担制度の存続、就学奨励制度の存続、高等部職業教育設備事業の継続、などを保障する法制度を確立すること。理教連は、これらを早急に取りまとめ、夏休み中に署名活動を展開する方針だ。
また、あん摩・マッサージ・指圧師の無免許者対策として、医療性の高いマッサージ等について研究するという方針も出された。無免許者が横行するのは、これら手技療法の定義が不明確で、厚労省がきちんとした見解を示していないことにある。研究チームのメンバーは、会長、副会長ら6名。研究結果をもとに、手技療法は免許者が施術しないと危険性の高いことを明らかにし、厚労省、警察の取締りに反映させたいとしている。その一方で、手技療法の有効性をも明らかにし、保険点数の獲得につなげたいという。
タイ式マッサージ問題に関して、この総会前日に、日本とタイとの自由貿易協定の交渉が基本合意に達した。今年2月12日に発表された日本側の素案にあったタイ人の日本国内での雇用機会の拡大で、タイ式マッサージ師の受け入れが明記されていた。しかし、今回の基本合意ではマッサージ師の受け入れは見送りとなっている。これに対し、法制部は、「外交問題は今後どうなるかわからない。理教連として継続して関係機関に訴えていく」と動向を見守っていく姿勢を示した。
最後に、理教連から会長・副会長3名の代表を送っているあはき師国家試験あり方研究会についての報告があった(詳細は本誌先月号芦野純夫氏の解説参照)。あはき師国家試験の一番の問題は、他の医療職試験に比べて、単純想起型問題の占める割合が多いことだ。医療従事者として必要な理解力・分析力を合否判断の基準としていないことになる。ところが、理解力・分析力を問う試験問題になると、視覚障害受験生にとって試験時間など不利となる可能性がある。そこで、理教連は、試行試験を来年3月に実施することを同研究会に要望。試行試験対象者は、今年度の国家試験を受験した者で、テープ受験など様々な受験方法で参加してもらい、試験結果を分析、評価する。この結果を踏まえた上で、問題の割合、試験時間など、今の合格率を下げないような試験を提案したいという。しかし、試験改革について、あはき師国家試験を実施する東洋療法研修試験財団や厚労省がどう判断するかはわからない状況だ。
盲学校でのあはき職業教育の果たすべき使命は、視覚障害生徒を社会的に自立できるあはき師に育成することだが、翌日行われた理療科分科会で議論の中心になっていたのは、卒業生の臨床力不足と職場定着率が低いことだった。特別支援教育の中でもあはき職業教育の充実を訴えていくためには、盲学校が一人前のあはき師を数多く輩出している実績を作り上げていくことが重要だが、その道は一筋縄ではいかないようである。(山本令子)
「久しぶりに煙草を吸った」と思ったが、すでに灰皿には自分が吸った(と思われる)吸い殻が山積みになっている。「夢か」と思ったら目が覚めた。
このように煙草を吸う夢を見るのは久しぶりである。禁煙をはじめた当時は、夢の中で頻繁にうまい煙草を吸った。そして、そのたびに禁を破った自責の念に苛まれ、脂汗を流して目が覚め、己の小心さが忌まいましかったものである。