THKA

社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2005年8月号

第36巻8号(通巻第423号)
編集人:福山 博、発行人:竹内恒之
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:tj@thka.jp
―この紙はリサイクルできません―

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「法廷侮辱罪(コンテンプト・オブ・コート)」

 『ニューヨーク・タイムズ』紙のジュディス・ミラー記者は、ホワイトハウス高官が国家機密である中央情報局(CIA)工作員の名前を意図的にメディアに漏らしたとされるリーク疑惑に関して、大陪審(容疑者を起訴するかどうかを決める陪審)での証言を拒み、7月6日、連邦地裁より法廷侮辱罪が適用され、ワシントン郊外の刑務所に収監された。
  米国では、暴言や証言拒否などで法廷の権威を侵したり運営を妨げる行為に対して制裁することができ、裁判官が法廷侮辱だと認定すれば、陪審裁判にかけられることなく、裁判官の裁量だけで身柄の拘禁や罰金などに処すことができる。
  米国ではこの悪法により過去15年間に、取材源の秘匿を理由に証言を拒否した記者13名が収監されてきた。

目次

(特別寄稿)岐路に立つ財団あはき師試験の今後のあり方(芦野純夫) ・・・・・・・・
3
研究室から:得して学ぶコミュニケーション(小山恵美子) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13
福井教授の投稿を読んで(大西雅廣) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
4大化をめぐる論争に思う ― 問題点を再検討する ―(大橋由昌) ・・・・・・・・・・・・
18
感染症研究:すっかり定着してしまったO157 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
24
カフェパウゼ:代用コーヒーの涙ぐましい歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
29
万華鏡:笑い話で済めばいいが ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
31
水原紫苑の短歌教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
コラム・3点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
36
知られざる偉人:現代数学の開拓者L.S.ポントリャーギン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
39
大相撲:ラストチャンス!? 琴光喜の大関取り ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
43
読書人:時代に翻弄された『紫禁城の黄昏』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
46
宮城道雄50回忌に寄せて(3) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
49
ブレーメン:ナチスの亡霊と市民の良心 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
54
スモールトーク:米国流「振り込め詐欺」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
57
時代の風:高倉健さん朗読CDを盲学校に寄贈、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
60
伝言板:視覚障害者モニター募集、授産所ウイズ開所10周年イベント、
  ウイズの白杖づくり体験合宿もよろしく、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

■カフェパウゼ■
代用コーヒーの涙ぐましい歴史

 戦時中はコーヒー豆が輸入制限され、ついにはまったく途絶えたので、わが国で代用コーヒーが花盛りだったことは、良く知られている。しかしつい最近まで、これはわが国だけの特殊事情だとばかり考えていたが、ヨーロッパではさらに深刻で、とくにドイツでは、古から涙ぐましいばかりの大研究がなされていた。
  代用コーヒーのもっとも古い記録は、フリードリッヒ大王統治下のプロイセンで、コーヒーが大流行したため、お茶代わりに飲まれていたビールの消費量が落ちて業界が大打撃を被った。またコーヒー豆の輸入による貿易不均衡もあり、財政再建のため1777年にビール・コーヒー条例が制定され、コーヒー豆に高い関税が掛けられた。このため、庶民は代用コーヒーを飲まざるを得なくなったのである。その後ナポレオンの大陸封鎖では、プロイセンへのコーヒー輸入の道が実際に絶たれてしまう。こうして「ナポレオンの大陸封鎖によって生じた砂糖とコーヒーの欠乏が、ドイツ人をナポレオン蜂起に駆り立てた」と、カール・マルクスがいうように、コーヒーのうらみは戦争の一因にもなり、苦難の歴史を重ねてドイツ人はコーヒーを偏愛するようになったという。
  一方、南北戦争中の米国でもコーヒー豆が欠乏し、あの名画『風と共に去りぬ』の中でも、主人公のスカーレットが、苦いだけの代用コーヒーを腹を立てながら飲んでいるのであった。そして時代が下り、第一次・第二次世界大戦中のヨーロッパでも、そして冷戦下の東欧諸国でも苦い代用コーヒーが喫されたのであった。
  代用コーヒーの原料として、わが国ではもっぱら大豆を使ったが、他にトウモロコシ、タンポポの根、ハーブのチコリ(菊苦菜<キクニガナ>)など、世界中でありとあらゆる植物が試みられてきた。その一例をあげると、ゴボウ、ジャガイモ、百合根、桜の木・葦・シダ・コバンソウの根、カボチャ・ブドウ・カキ・オクラ・ヒマワリの種、桑・トショウ・サンザシ・ヒイラギ・スモモ・栃・ナナカマドの実、ピーナッツ、ドングリ、オオムギ、コムギ、乾燥イチジク、ホップ、甜菜、玄米、パンの耳など、その執念に恐れ入るが、そういえば日本の夏に欠かせない麦茶だって、「茶」というより、あるいは「コーヒー」に近いのかも知れない。ちなみにこれらの代用コーヒーを、ドイツでは併せて「ムッケフック」と呼び、むろんこれらはコーヒー豆と同じように煎って、粉末にして、お湯を注いで飲むのである。
  最近は、わが国でも黒大豆コーヒーやコシヒカリ玄米コーヒー、たんぽぽコーヒーなどが市販されているが、これは妊娠中などでカフェインの摂取を避けている人用のノンカフェインのコーヒーである。また、フランスや米国南部では、昔から好んでコーヒーの粉にチコリを混ぜて飲んでいる。そして最近、チコリが水溶性植物繊維「イヌリン」を大量に含有しており、便秘を予防し、コレステロールを減少させ、腸内での糖質の吸収を抑えることから、食後の血糖値の上昇を遅らせたり、膵臓からのインスリンの分泌量を節約して膵臓機能を休ませる健康飲料として、にわかに注目されている。(福山博)

■スモールトーク■
米国流「振り込め詐欺」

 この話しを最初に聞いたときは、一瞬、新手の「振り込め詐欺」に違いないと思った。が、えげつないがあくまでも合法的で、しかも、あえていうが加害者は米国大使館である。そして、あまりに気の毒なので名前は伏せるが、被害者はこの春、筑波大学大学院に入学した全盲のネパール青年K氏である。
  K氏は昨年の9月に、友人である全盲の日本人教師A氏の手引で来日し、同氏の指導でハードな受験勉強に耐え、晴れて大学院の試験に合格。その後、日本における生活訓練や歩行訓練を行うため、神奈川県藤沢市にある光友会や東京都の生活支援センターに入所する。しかし、その前はホームステイ先を探したり、安宿を求めて一泊1,500円の障害者スポーツセンターや2,000円のアジア文化会館などを転々とした。ネパールにおけるごく普通の給与所得者の月給が5,000円程度であるため、彼にとってはたとえ一泊5,000円でも高嶺の花であった。しかしそのような苦労やいくらかの波乱はあったものの、A氏のフルサポートのお陰で、結果的には思いの外順調に推移し、4月以降の学生生活のめどもなんとかついた。そう思っていた矢先に、思わぬ蹉跌が彼を待ち受けていた。
本年3月下旬に米国カリフォルニア州立大学ノースリッジ校(CSUN)において例年開催される障害者カンファレンスに、K氏も参加することになった。むろん、スポンサーがあってのことである。そしてCSUNからは早々と招待状をもらい準備は万端整い、後は米国の査証(ビザ)を貰うだけ。日本人は、観光目的の入国であれば、米国ビザの必要はない。また、ビザが必要な国であっても日本人であれば簡単に取ることができるので、その入手にいたる苦労を知らない。しかし、発展途上国の人々にとっての壁は厚く、日本に入国することだって大変で、留学ビザを取るのにもなにかと苦労が絶えなかったのである。
米国のビザ申請手続きは、あらかじめ大使館に電話で予約して、決められた日に必要な書類を持参し、3分間の面接を受けるという方式。必要書類の中には、ビザ代100ドル相当分の邦貨を送金したという受領証も含まれている。K氏はその月の米国大使館が設定した邦貨に換算した金額がわからなかったので、送金する銀行の窓口で相談して1万800円を送金した。後で確認すると1万600円でよかったのだが、不足するとまずいと思って余分に送ったのだ。そして、面接の日、ボランティアを頼んで大使館に出向くと、書類が1枚足りないといわれた。そして不足の書類を大使館でタイプしてもらうために手数料として6,000円が必要であった。しかし、K氏はこれでビザが貰えると思い喜んで払ったという。
  ところが面接の最中「カンファレンスで発表するのか」と聞かれ、「その予定はない」と答えると、「あなたが行かなくても、CSUNは困らない」といわれた。そして、ビザはついに発給されなかったのである。「ネパールに帰って申請すれば、あるいは発給されるかも知れない」と、気休めをいわれたが、ビザを発給されなかった理由については答えてくれなかった。そして、1万800円と6,000円の都合1万6,800円は大使館に没収されたのであった。世界でも最も豊かな国の官吏が、世界で最も貧しい国の障害者から、なけなしの金をかすめ取ったのである。
  在日米国大使館は、東京都港区赤坂一丁目にある。しかし、日本国内にあっても大使館の敷地内はアメリカ合衆国内なのだから、米国の法律が適用される。したがって、16,800円は米国の法律に照らして合法なのであろう。しかし、これが「フェアであること」を金科玉条にする「世界の警察官」のやることであろうか? これでは権力を笠に着た「振り込め詐欺」と同じではないか。
  ちなみに日本の入国管理局では、提出書類が膨大でしかも審査にとても時間がかかる。留学ビザは申請してから、実際にもらうまで3週間もかかった。しかし査証代は「これから給付しますので、1階のコンビニで6,000円の収入印紙を買って来て下さい」と、発給が決定してから請求する。つまり、日本では、ビザ代だけ取ってビザは発給しないという、詐欺まがいのことはしないのである。
  少なくとも、ビザに関しては米国は犯罪的な国である。前からそんな気はしていたが、米国のいう正義なんて所詮、悪徳警官のそれなのである。(福山博)

■編集ログブック■

 本号大西雅廣氏の原稿は、本誌前号(7月号)が発行されると、ほとんど間髪を容れずEメールで送られてきたもので、常々当欄で募集している投稿への応募という形式であったためタイトルはついていませんでした。それから数日後、旧知の大橋由昌氏から、本誌に投稿したい旨の申し出がありました。そこで、両氏の原稿をまとめて掲載することにしたため、大西氏の原稿タイトル「福井教授の投稿を読んで」は、本誌編集部でつけたものであることを、ここにお断り致します。
  長尾榮一氏より電話で、「内田百閧ヘ、東大分院の看護婦寮の脇に住んでいた」と聞いていたが、本誌7月号を読んで、区役所に問い合わせたところ、編集部が特定した雑司ヶ谷町110番地は東京盲学校の正門前であり、看護婦寮の脇ではない。したがって少なくとも、場所と地番のどちらかが間違っているので、調査して欲しい」とのご命令がありました。そこで『内田百闡S集』をみると第10巻に「小石川區雑司ヶ谷町百十番地」とあり、同第1巻の「盲人運動會」という随筆に、「あちらこちらを轉轉した揚句、小石川雑司ヶ谷に引っ越したら、今度は盲学校の正門の前であった」と書いてありました。そこで、ここに本誌7月号35ページ7行目の「看護婦寮の脇」を、「盲学校の正門の前」に訂正させていただきたいと存じます。
  本誌のEメールアドレスが、tj@thka.jpに変わりましたので、よろしくお願いします。(福山)

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