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社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2005年7月号
第36巻7号(通巻第422号)
編集人:福山 博、発行人:竹内恒之
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:XLY06755@nifty.ne.jp
―この紙はリサイクルできません―

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「クール・ビズ(Cool biz)」

 また、政府が変なことをはじめたと思ったのは、昭和54年(1979)に大平内閣が打ち出した「省エネルック」の空騒ぎを想い出したからだ。しかし、今回環境省が公募を経て命名した、「クール・ビズ」は、悪くないネーミングだ。bizは「ビジネス」の短縮形なので、「涼しい(クールな)服装で、冷房温度を抑え、電力消費を減らして、格好良く(クールに)仕事(ビジネス)をやろう」とでもいうようなメッセージもよくわかる。しかも、この種の横文字名称にありがちな、原語の意味をねじ曲げた牽強付会もない。ただ、政府は、立派なネーミングさえつけたら国民は素直に「踊る」とでも思っているのであろうか。このめでたさばかりは、四半世紀過ぎた今も変わらない。「国家公務員や官庁出入りの業者は、原則6〜9月はネクタイ厳禁」という通達でも各省庁一斉に出した方が、よほど効果があがると思うのだが?

目次

(特別寄稿1)ドイツ盲人給付金切り下げ騒動(田中徹二) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
(特別寄稿2)国会図書館利用体験記(岩屋芳夫) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
(学長インタビューを読んで)大沼学長の態度と認識不足(福井郁生) ・・・・・・・・・・
11
美術を楽しむ:視覚障害者の美術鑑賞をサポートする新しい試み(半田こずえ) ・・・
18
研究室から:21世紀も手技療法は視覚障害者が背負って立とう!(殿山希) ・・・・・
22
障害者権利条約制定への国際NGOコーカスの活動について ・・・・・・・・・・・・・・・・
25
感染症研究:ピロリ菌除菌で胃がん予防は可能か ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
28
万華鏡:鍛えることは大事だが ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
宮城道雄50回忌に寄せて (2) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
福田案山子の川柳教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
40
知られざる偉人:民間職業リハビリテーション施設を作ったR.クンペ ・・・・・・・・・・
43
コラム・3点セット ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
大相撲:永遠なれ、昭和の名大関貴ノ花 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
鳥の目、虫の目:「タイスパ」が雨後の筍になるまで ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
ブレーメン:ドイツ生まれのあかりちゃんとの出会い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
時代の風:点字案内にミス多発、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
伝言板:日点随筆作品募集、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
62
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
64

国際セミナー
障害者権利条約制定への
国際NGOコーカスの活動について

 6月8日(水)午後1時半より、(財)日本障害者リハビリテーション協会主催による標記タイトルのセミナーが戸山サンライズにおいて、約60名の参加者を集めて開催された。
 2001年12月の国連総会決議により設置が決定された障害者権利条約を検討するための特別委員会は、すでに5回開催された。このうち第3回以降は、2003年1月に特別委員会の作業部会で作られた条約草案に基づいて、各条ごとに徹底的な討議が行われている。
 特別委員会では、国際NGOコーカス(注)と呼ばれる、障害当事者団体を中心とした多くの国際NGOから構成されるゆるやかなネットワークが、障害者権利条約についてNGOとしての意見を集約し、それを条約交渉に反映すべく活発な活動を展開してきている。
 このたびのセミナーは、国際NGOコーカスの中心メンバーのひとつであるRI(国際リハビリテーション協会)のトーマス・ラガウォール事務総長の来日を機に、現時点における障害者権利条約の討議内容を包括的に理解することを目的に、JDF(日本障害フォーラム)の協賛を得て、実施されたものである。
 ラガウォール事務総長による「障害者権利条約制定に向けて」と題された講演は、まず同条約制定に向けてのこれまでの経緯と背景を述べ、現在の討議内容を概説し、条約制定に向けてのRIの役割と活動内容を紹介した。同氏はスウェーデン出身で、同国の外務省や国際開発協力庁に勤務した経歴を持っている。その観点から、「貧困と障害は関連性があり、世界の障害者人口の75〜80%は発展途上国に生活しており、南の人々は北に住むわれわれよりもずっと条約を必要としている」と述べ、同条約における国際協力(第24条第2次案)の必要性を力説。また、「今後2、3年以内に条約に関する協議が終わり、その後、各国政府が条約を批准・実施することになるだろう」と今後の見通しを語った。その際、もっとも重要なことはモニタリング(第25条)メカニズムの構築だと訴えた。ここで、同氏の念頭にあったのは、やはり開発途上国の問題であろう。批准したとしても、実施されなければ絵に描いた餅に過ぎないが、実施には財政的裏付けが必要で、そのためには先進国による国際協力が不可欠だからだ。同氏は、最近中米のホンジュラスを視察した経験を述べ、同国にたいする支援は米州開発銀行に次いで日本が多いことを紹介し、やや唐突ではあったが感謝の念を表明した。これは同国と歴史的な利害関係がないわが国が、保健・衛生インフラの構築等で、有意義な支援をしていることを評価してのことだろう。障害者権利条約をめぐっては、障害当事者団体の主張をいかに反映させるかを追求する余り、内向きの議論やアピールが目立つが、「本国際条約を最も必要としているのは誰か」という同氏の指摘は、示唆に富むものであった。
 講演の後はJDF権利条約委員会金政玉(キム・ジョンオク)委員長による日本における同条約に関するこれまでの取り組み、とりわけ本年2月には123名の国会議員により、国連障害者の権利条約推進議員連盟が発足したことなどが報告された。
 日本語の資料では、第21条第2次案は「リハビリテーション」と書かれていたが、これは誤訳で、正しくは「ハビリテーションとリハビリテーション」であった。この二つの違いに関して、ラガウォール事務総長は、「リハビリテーションは中途障害者が更生することであり、ハビリテーションは、障害を持って生まれてきたひとたちのそれである」と質問に答えた。また、フロアーから内閣府の依田晶男(ヨダ・アキオ)参事官が特別に発言し、首相を本部長に各省横断的に権利条約に取り組んでいる現状を述べた。
 討議のコーディネーターであったJDF幹事会藤井克徳議長は、「条約疲れという声も聞かれたが、本条約は現在胸突き八丁にさしかかっている。子どもの権利条約は12年かかったが、本条約は提唱からまだ4年しかたっていない」と述べ、今一層の奮起を参加者に訴えた。
 (注)コーカス(Caucus)とは、本来は政党などの幹部会のことだが、政策毎に組織された議会や政府、国連や国際会議に向けて行う要望・提言活動を行う団体もそう呼ぶ。(福山博)

■鳥の目、虫の目■
「タイスパ」が雨後の筍になるまで

 5月7日付の新聞各紙は、「タイを訪問中の中川経済産業大臣が6日午後、日本とタイの自由貿易協定(FTA)締結に向け、タクシン首相と会談し、7月までの決着を目指して詰めの交渉を急ぐことで一致」と報じた。本交渉の中で、タイ政府はスパ事業の自由化を求めており、これがあはき師法との関係で問題視されているのは本誌既報のとおりである。しかし、肝心の「タイスパ」の実態が不明であるため、反対運動も暖簾に腕押しの状態である。そこで、日本における現状はひとまずおいて、タイ王国におけるスパ事業とは何かを探ってみた。

スパとはなにか?

 英語でスパ(spa)といえば、鉱泉、温泉、温泉保養地、あるいはその施設のことだが、元もとはベルギー南東部のアルデンヌ地方にある人口1万人足らずの温泉保養地の町の名である。この地はローマ時代から泡の出る温泉で知られていたが、その後忘れ去られ1326年に再発見された。そしてその後、ヨーロッパ中の王侯貴族や富豪などが集う高級温浴リゾートとして開発されたのであった。この町には、現在もいくつかの温浴施設があるが、1868年開業の由緒ある「テルム・ド・スパ」には、大型プール、ジャクジー、スチームバスなども完備され、マッサージサービスもある。ただし、最も安い「カルボガズー」(炭酸泉浴)にたった15分間入浴するだけでも邦貨で1,600円位もするため、庶民には縁遠い高級保養地である。
 ヨーロッパ中にその名が知られるようになったこのベルギーの本家「スパ」にあやかって、その後ドイツ、フランス、スイスなどヨーロッパ各地にも同様の温泉保養地が作られたが、これらのスパはいわゆる温泉リゾートのことなので、現在問題になっている「タイスパ」とは無関係である。
 昨今世界的に流行しているスパは、ヨーロッパで薬効のある鉱泉や温泉を元にした施設であったものを、1980年代に米国で大衆的なヘルスセンターにしてビジネス化したものである。とくに、1991年に米国ケンタッキー州のレキシントンに本部を置く国際スパ協会(ISPA)が設立され、スパビジネスは本格化する。この団体は世界で唯一の国際的なスパ産業の団体であると豪語し、世界70カ国の2,300以上のスパ産業の施設・団体が加盟している。そして、ついには本家のヨーロッパをも席巻するようになり、2004年度の年次総会は、5月に横浜で行っている。

元祖「タイスパ」の隆盛

 米国での流行は、しばらくしてバンコクにも飛び火する。欧米の旅行誌、ホテル専門誌などでベストホテルに何度も選ばれ、「世界一のホテル」とも称されるオリエンタル・ホテル・バンコクに米国流のスパが1993年にオープンしたのである。そして、今や「オリエンタル・スパ」の名称で、1876年創業のこの格式の高いホテルの売り物の一つにさえなっている。
 オリエンタル・ホテルはバンコクの中心を流れるチャオプラヤ川に添って建っているが、客室やレストランがある敷地の川を挟んだ対岸に王家の離宮を模したスパ・ハウスがあり、専用の船で対岸へ渡り、施術は14室のプライベート・スイートで行われる。そこには専用の大型のシャワーとスチーム・ルームが完備され、香り高いハーブティーを飲み、シャワーを浴びてリラックスした後にマッサージが始まる。メニューは、海水ジェットバス、全身パパイヤパック、全身海草パック、オイルマッサージ、タイ式マッサージ、フェーシャル・マッサージ、首・肩集中マッサージなど、30種類から選べて、3時間半で邦貨にして約2万3,000円、5時間で2万6,000円前後はする。しかもこのスパサービスはオリエンタル・ホテルの宿泊客が優先され、しかも2泊以上でないとスパは受けられないので、一人で2泊して半日コースを2回受けるとなると、宿泊料込みで少なくとも一人10万円は必要となるようだ。
 米誌『トラベル&レジャー』は、1999年からスパのランキングを発表しているが、シティホテル部門で、「オリエンタル」は常に1位に輝いており、タイスパのパイオニアであり、リーダー的存在である。そして、この「オリエンタル」の成功に触発されて、タイでは類似のサービスが雨後の筍のように現れ、それを総称してタイスパという。ただ、業態や施術内容も千差万別、玉石混交で、スパの定義もはっきりとしていないため、わが国の旅行代理店ではエステとスパを同一視している。しかし、はっきりしているのはスパとは施術ではなく業態のことであり、タイスパで施術されるのは、美顔術や全身美容と各種マッサージだということである。(福山博)

■編集ログブック■

 5月の中旬、筑波技術短大福井郁生教授より、本誌4月号に掲載された同大学長インタビューに関する抗議の電話が、当編集部にかかってきました。同氏の怒りは、大沼学長とインタビューを再構成し、あわせて「主観的見解を述べている」という当方(本誌編集長)にありました。そこで、福井氏に学長インタビューに関する「反論と意見」のための誌面を提供することを約したのですが、出稿された原稿は予定枚数を大幅に超過していました。そこで、同氏と相談の上、論拠として添えられた二つの表は思いきって簡略化していただき、それ以外は、この種の原稿としては異例の長文ですが、福井氏の了承を得て句読点の処理等いくらかのささやかな修正をした以外は、ほぼ原文のまま掲載することにしました。それは物事には多様な認識があり、多様な意見があり、それを可能な限り尊重したいと考えたからです。従って本誌に福井氏による「大沼学長の態度と認識不足」を掲載したことにより、自動的に4月号に掲載された「学長インタビュー」が否定あるいは、毀損されるものではないことを、ここに申し添えます。それはまた別の問題で、内容の正否は読者にゆだねたいと思います。
 福井氏は新たな問題提起もされています。これらの議論が建設的に進められ、新生・筑波技術大学が、なによりも視覚・聴覚障害学生にとって少しでもよりよく成ることを、本誌は祈念しております。(福山博)

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