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社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

点字ジャーナル 2005年1月号
第36巻1号(通巻第416号)
編集人:福山 博、発行人:竹内恒之
発行所:(社福)東京ヘレン・ケラー協会(〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4
電話:03-3200-1310 振替:00190-5-173877) 定価:一部700円
編集課 E-mail:XLY06755@nifty.ne.jp
―この紙はリサイクルできません―

はじめに言葉ありき「巻頭ミセラニー」
「門松」

 正月に飾る門松は原始信仰に由来するもので、正月に家々に迎えて祭る「年神(トシガミ)」を招くための目印であり、降臨したときに宿る「依代(ヨリシロ)」を表すものとされている。
 この年神は一般には、田の神としての性格が強く、五穀を司る神と考えられている。しかし一説では、日本には古く年の暮になると、山から降りて来る鬼や天狗のような神と人との中間があると信じられており、正月に迎える年神(歳徳神<トシトクジン>)もそれが変化したものという。さらに古くは、祖先神が来ると信じられており、年神は三日の晩におきなと姥の姿で、帰るという信仰も各地に伝承されている。
 何やらおどろおどろしくなったので、ここで、とんち話やアニメでお馴染みの一休宗純(イッキュウ・ソウジュン)禅師(ゼンジ)の狂歌で、年の始めを寿ぐことにする。
 門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし

目次

(新春鼎談)JDFの結成と新たな障害者運動の展望
 (ご出席は、笹川吉彦、藤井克徳、指田忠司の3氏) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
『演歌'04』『ポップス'04』カラオケ歌詞集発行のお知らせ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
16
カフェパウゼ 「グリューワイン」の季節 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
17
研究室から:実現に近付いたGPS視覚障害者歩行支援システム(石川准) ・・・・・
19
新潟県中越地震調査報告 視覚障害リハビリテーション協会は
 被災地の復興を応援します(雷坂浩之) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
「この偉大な生涯」(中)近代盲・聾教育の父小西信八 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
26
感染症研究の最前線 冬場に多いノロウイルス食中毒 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
30
万華鏡:情けなや、わがポリシー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
35
世界盲人連合(WBU)総会終わる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
37
高知システム開発がテレサポートを開始 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
41
(新連載)コラム・3点セット(水谷昌史) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
読書人:『中国の大盗賊』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
福田案山子の川柳教室 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
47
大相撲:それぞれのプレッシャーとの戦い ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
スモール・トーク 空港で途方にくれないために ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
53
ブレーメンの奇妙な雲行き ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
時代の風 映画館に介助士配置、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
59
伝言板 日点ニュー・イヤー・コンサート、他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
編集ログブック ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
63

■カフェパウゼ■
「グリューワイン」の季節

 木枯らしが吹き、底冷えがするようになるとホットワインを飲みたくなる。数年前に店を閉めたが、東京・高田馬場駅の近くに「レダ」という、7、8人も入ればいっぱいのカウンターバーがあった。ママは引退時には80歳をとうに越えていたはずだが、しっかりした品のいいご婦人であった。
 この店は焼け跡・闇市当時から続く有名なバーで、常連には学生時代から通っているという早稲田のドイツ語教授などもいた。ちなみに「レダ」とはギリシャ神話で、白鳥に変身したゼウスと愛し合う美しい人間の娘の名前。
 あれは阪神淡路大震災が起こる直前の正月休みであるから、ちょうど10年前にそのレダのママとカトマンズの高級ホテル「ヤク&イエティ」で、ばったり鉢合わせしたことがあった。その時、ママが海外旅行を趣味にしており、息子さんをお供に、気ままな自由旅行を楽しんでいることを知った。すでに世界中を旅したということで、「どうりでレダには世界中の珍しいアルコール類がそろっているはず」と、合点がいった次第。しかも、日本で入手できない酒は、独自に個人輸入しているという。
 レダにはじめて僕が行ったのは、かれこれ25年も前で、しかも飲み会の土壇場。もういい加減に帰りたいのに、「風邪に利くいい薬があるから」などと騙されて連れていかれたもの。その薬というのがホットワインで、この店ではもっぱら「グリューワイン」と呼んでいた。ホットワインは、日本ではまだそれほどポピュラーな飲み物ではないが、ドイツでは「グリューヴァイン」、フランスでは「ヴァン・ショー」、イギリスでは「マールワイン」、北欧では「グレッグ」と呼ばれ親しまれている。
 ホットワインは、安い赤ワインに砂糖(または蜂蜜)、レモンやオレンジの皮、好みのスパイス(シナモン、グローブ、ナツメグなど)、それに生姜をごく少量入れて火にかけ、沸騰しないように温めて作る。しかし、「レダ」ではドイツのできあいの専用ワインを温めてマグカップに注いで出していた。
 グリューワインなどと気取ってみても、所詮はわが国の「卵酒」や「生姜酒」と同類であるから、高級酒店のワインセラーに横たわっているものではない。本場ではスキー場のロッジやクリスマスマーケット、それに街角の屋台などでも売られており、いわばわが国の甘酒感覚。価格もいたって庶民的で、その安さと知名度の低さのため、わが国ではできあいのグリューワインを入手できないのではないだろうか。などと思っていたら下記2社が、この冬限定で販売していた。
 月桂冠(075-623-2040)「グリューワイン」(750ml)1,025円。
 白鶴酒造(078-856-7190)「グートロイトハウス・グリューワイン」(1l)1,528円、同(250ml)498円。
 ただし、両社とも大々的に全国展開しているわけではないし、暖冬も禍しているようで、「売っている店が本当にあるの?」というくらい見かけない。しかも、酒屋自体が勉強不足で、「清酒メーカーがホットワインなんて?」という顔をして、真面目に取り合ってくれないので、とても情けない思いをした。(福山)

■スモール・トーク■
空港で途方にくれないために

 去る12月1日、「首都・東京の空の玄関」羽田空港に第2旅客ターミナルがオープンした。総事業費670億円をかけた地上5階、地下1階の巨大ターミナルで、直接搭乗できるスポットが15カ所あり、これまで乗客の4割がバスを使っていたのが、ほとんどの便で直接搭乗できるようになった。しかも動く歩道は、車イスも楽に乗れる幅140cmにするなど、バリアフリーも完璧だ。
 発着する航空会社は、第2ターミナルが全日空と北海道国際航空(エア・ドゥ)。第1ターミナルが、日本航空グループとスカイマークエアラインズ、スカイネットアジア航空で、交通アクセスは東京モノレールが延び、京浜急行駅も出入り口を直結させた・・・。
 マスコミは久しぶりの明るい話題にこぞって飛びつき、ご祝儀報道であるが、過去に空港で途方にくれたり、走り回った経験のある僕は、また苦労の種が増えたのではないかとつい気を揉んでしまった。とくに羽田空港は搭乗時間に間に合わず、3時間遅れで飛んだこともあり、思い出すだに冷や汗が出る場所だ。
 一昔前の話であるが、僕は成田空港に海外からの賓客を迎えに行って、ついうっかりターミナルビルを間違えたことがある。そして、そのときつくづく感じたことは、第1から第2旅客ターミナルへは歩いていけないということである。ただ、この件に関してこのたび改めて成田空港に問い合わせたところ、実は歩いて行けるという意外な返事。しかし「徒歩ではおそらく30分はかかりますので、無料の連絡バスをご利用ください」ということなので、これでは歩いて行けないといっても過言ではないだろう。
 一方、羽田空港の「第1」と「第2」間は、地下道で直結されており、500m程度なのでこれは約5分で歩ける。ただし、「国際線ターミナルビルへは、第1、第2ターミナルよりそれぞれ無料連絡バスをご利用ください」と広報しているので、これは歩けないということなのだろうか?そこで電話をかけてみると、「第2」と「国際線」は歩いて、5分程度、しかし「第1」と「国際線」は歩くと10分以上はかかるだろうとのことで、ここも無料バスを利用したほうが無難なようである。
 なにやら、ターミナルを間違えた際の心配ばかりしているようだが、これにはわけがある。国内の空港でもあわてるが、海外での場合はもっと深刻で、右往左往する。昨年(2004)9月、バンコクに1泊した我々は、2台のハイヤーに分乗して空港に向かった。僕は後発組であったがバンコク国際空港に到着しても、先に出た同行者の影も形もなかった。このため、それから大騒ぎで探し回るはめになったのだ。結局30分ほどたって、ひょっこり先発組が現れたので、事情を聞いてみたら、ハイヤーが間違えて国内線のターミナルに着けてしまったという。
 ところで、僕はこれまで何度もバンコク空港を利用しているが、国際線と国内線にターミナルがわかれていることを意識したことがなかった。そして、タクシーにしろハイヤーにしろ「ターミナルはどちら?」などと聞かれたためしもなかった。しかしそういえば、ドライバーから「どこから来たのかとか、これからどこに行くのか」などと必ず聞かれた。僕はこれまで、挨拶がわりの世間話だとばかり思っていたが、あの会話でターミナルがどちらか見当をつけていたのである。しかし、これなどは、離れているといっても同一飛行場であるから、まだましといわなければならない。
 その昔、ニューヨークからボストンに飛ぶためにタクシーで全盲の友人と飛行場に向かっていた。そして途中でその同乗者が、車がJ.F.ケネディー空港に向かっていることに気づき大騒ぎになった。ニューヨーク周辺には、3つの空港があり、その日はラガーディア空港から出発する予定だったのだ。ちなみにもう一つの空港は、ニューアーク空港という。空港が隣接して開業しているわけもなく、まったくの方向違いであったがなんとか間に合い、胸をなで下ろした。ちょうど伊丹空港に向かうつもりで、関西空港に向かうようなものだが、関空、大阪間はバスで約70分であるから、交通アクセスとしてはこちらの方が余程ましだろう。
 ところで、僕はこの大阪でも肝を冷やしたことがある。カトマンズ発、上海経由、関空着で帰国し、宅急便でスーツケースも自宅に送ると、僕はすっかり気が緩んでしまった。
 搭乗にはまだ時間があったが、手持ちぶさたでもあり僕はいつもより早めにチェックインした。すると、係員が機内預け入れの荷物を持っていないことを確認すると、手を引かんばかりにして急かせた。僕の時計は中国時間に合わせてあり、ちょうど1時間遅れていたのであった。(福山博)

■編集ログブック■

 2005年1月号をお届けします。昨年(2004)の晩秋に日本障害フォーラム(JDF)が結成されたことを受けて、明るい未来を展望してもらおうと巻頭・鼎談を企画しました。しかし、厚労省の無責任ぶりをはじめとして現実は難問山積で、厳しい現実のみが一段と浮きぼりになったように思われました。
 ここ10年ほど毎年天候不順がいわれておりますが、昨年はとりわけ異常気象の度合いが顕著であったように思われます。夏の酷暑を縫うように、例年になく台風が来襲し、各地に被害を及ぼした後、思いがけず新潟県中越地震にも見舞われました。ようやく復興の槌音が聞こえるようになりましたので、被災地復興支援のアピールを兼ねて雷坂浩之氏に現地調査報告を寄稿していただきました。
 今年こそ行政も天候もまともでありますよう願うばかりです。
 一方、昨年は例年になくあはき師法違反容疑で無免許者が相次いで摘発された年でもありました。これに関連して「三療は『認知度』こそ危機」と題して、読者より投稿がありましたので、次にご紹介します。

読者より

 与那嶺岩夫さんの「正念場にたつ無免許あはき対策」(8〜10月号)と前号の「『介護予防モデル事業』には『フットケア』よりあはき施術を」を関心を持って読みました。与那嶺さんの緻密な分析と鋭い先見性、そしてあはきの会の当を得た素早い行動には脱帽です。
 ところで、フットケアのモデル事業への参入ですが、それが決して特異的な現象とも言い切れない一例を紹介します。それは千葉県のある市における公式サイトです。「医療関係機関一覧」というホームページがあるのですが、そこをみると、病院・診療所、調剤薬局などと並んで、なんと「接骨院」なる項目がもうけられています。柔整が医療機関の仲間として認知されているわけですが、では同じ立場の三療は(?)見あたりませんでした。ただし、三療を共に営業している接骨院に関してはそれらも含めて医療機関のお墨付きを得ており、「東洋はり灸接骨院」、「鍼治療実施」、「希望者にはカイロプラクティック・気功治療実施」、「その他はり灸指圧マッサージを実施」、「はり灸治療あり」のような記述がみられました。
全国には同様の自治体もあるかも知れません。皆さまお住まいの地域のホームページや電話情報サービス、役所が発行するパンフレットなどを点検してみてはいかがでしょうか?今や、三療の無資格者問題は法律やライセンスの側面よりも「社会的認知度」の危機の方がより深刻なのだと思えてなりません。(東京都北区・田中邦夫)

編集長より

 「カフェパウゼ」にて、なにやらグリューワインを旨そうに書いてしまいましたが、実際は、赤玉ポートワイン改め、「赤玉スイートワイン」の類だと思って、そう遠くはありませんので、ご注意ください。
 末筆ですが、新しい年が皆さまにとって、素晴らしい希望に満ちたものになることをお祈り致します。(福山博)

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