正月に飾る門松は原始信仰に由来するもので、正月に家々に迎えて祭る「年神(トシガミ)」を招くための目印であり、降臨したときに宿る「依代(ヨリシロ)」を表すものとされている。
この年神は一般には、田の神としての性格が強く、五穀を司る神と考えられている。しかし一説では、日本には古く年の暮になると、山から降りて来る鬼や天狗のような神と人との中間があると信じられており、正月に迎える年神(歳徳神<トシトクジン>)もそれが変化したものという。さらに古くは、祖先神が来ると信じられており、年神は三日の晩におきなと姥の姿で、帰るという信仰も各地に伝承されている。
何やらおどろおどろしくなったので、ここで、とんち話やアニメでお馴染みの一休宗純(イッキュウ・ソウジュン)禅師(ゼンジ)の狂歌で、年の始めを寿ぐことにする。
門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし
木枯らしが吹き、底冷えがするようになるとホットワインを飲みたくなる。数年前に店を閉めたが、東京・高田馬場駅の近くに「レダ」という、7、8人も入ればいっぱいのカウンターバーがあった。ママは引退時には80歳をとうに越えていたはずだが、しっかりした品のいいご婦人であった。
この店は焼け跡・闇市当時から続く有名なバーで、常連には学生時代から通っているという早稲田のドイツ語教授などもいた。ちなみに「レダ」とはギリシャ神話で、白鳥に変身したゼウスと愛し合う美しい人間の娘の名前。
あれは阪神淡路大震災が起こる直前の正月休みであるから、ちょうど10年前にそのレダのママとカトマンズの高級ホテル「ヤク&イエティ」で、ばったり鉢合わせしたことがあった。その時、ママが海外旅行を趣味にしており、息子さんをお供に、気ままな自由旅行を楽しんでいることを知った。すでに世界中を旅したということで、「どうりでレダには世界中の珍しいアルコール類がそろっているはず」と、合点がいった次第。しかも、日本で入手できない酒は、独自に個人輸入しているという。
レダにはじめて僕が行ったのは、かれこれ25年も前で、しかも飲み会の土壇場。もういい加減に帰りたいのに、「風邪に利くいい薬があるから」などと騙されて連れていかれたもの。その薬というのがホットワインで、この店ではもっぱら「グリューワイン」と呼んでいた。ホットワインは、日本ではまだそれほどポピュラーな飲み物ではないが、ドイツでは「グリューヴァイン」、フランスでは「ヴァン・ショー」、イギリスでは「マールワイン」、北欧では「グレッグ」と呼ばれ親しまれている。
ホットワインは、安い赤ワインに砂糖(または蜂蜜)、レモンやオレンジの皮、好みのスパイス(シナモン、グローブ、ナツメグなど)、それに生姜をごく少量入れて火にかけ、沸騰しないように温めて作る。しかし、「レダ」ではドイツのできあいの専用ワインを温めてマグカップに注いで出していた。
グリューワインなどと気取ってみても、所詮はわが国の「卵酒」や「生姜酒」と同類であるから、高級酒店のワインセラーに横たわっているものではない。本場ではスキー場のロッジやクリスマスマーケット、それに街角の屋台などでも売られており、いわばわが国の甘酒感覚。価格もいたって庶民的で、その安さと知名度の低さのため、わが国ではできあいのグリューワインを入手できないのではないだろうか。などと思っていたら下記2社が、この冬限定で販売していた。
月桂冠(075-623-2040)「グリューワイン」(750ml)1,025円。
白鶴酒造(078-856-7190)「グートロイトハウス・グリューワイン」(1l)1,528円、同(250ml)498円。
ただし、両社とも大々的に全国展開しているわけではないし、暖冬も禍しているようで、「売っている店が本当にあるの?」というくらい見かけない。しかも、酒屋自体が勉強不足で、「清酒メーカーがホットワインなんて?」という顔をして、真面目に取り合ってくれないので、とても情けない思いをした。(福山)