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社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会

(『点字ジャーナル』2004年10月号より)

■ 鳥の目、虫の目 ■
えせ科学番組にご用心!?

 今年の夏はことのほか暑かったが、猛暑が来るちょっと前の話である。
 夜は居酒屋になる和食の店で、カウンターに座ってランチを食べていたら、異様な光景を目撃した。隣に座った二人連れの若いサラリーマン風の一人が、おもむろに書類カバンからミニボトルを取り出し、運ばれてきた焼魚定食になにやら得体のしれないものをふりかけはじめたのだ。その男はボトルをこれ見よがしにカウンターの上に置き、連れにとうとうと効能を垂れはじめたので、くだんのボトルの中身が「にがり」であることがわかった。
 にがりが近年女性の間でブームになっていることは、知っていた。しかし、これほどまで人口に膾炙しているとは思いもよらなかった。このブームの牽引役になっているのは、近年これまたテレビ番組のトレンドとしてもてはやされている「生活情報バラエティ番組」だという。そこで、「にがりで本当にヤセるのか!?」をテーマに、関西テレビ・フジテレビ系で本年5月30日(日)21時〜21時54分に放映された、「発掘!あるある大事典」を改めてチェックしてみた。
 その番組の独自調査では、1,000人中186人がダイエットを目的ににがりを使っていた。ただし、その中のなんと72%もの人が「効果が感じられない」と回答。しかし残りの28%は「確かな効果があった」という。どこにその違いがあるか、番組でさらに調査すると興味深い結果が出た。コーヒーやお茶に入れて飲んでも効果はないが、カレーや炒め物、みそ汁など、料理にふりかけると確かな効果があるというのだ。
 その訳をある栄養学者は、「にがりの主成分マグネシウムには脂肪の吸収をブロックする効果」、「糖の吸収を遅らせる効果」があるからと説明する。
 そして極めつけは1週間の実験である。まずは、数々のダイエットで失敗してきたというAさんは体重が1kg減った。次いで登場したBさんは1.4kg減。そしてCさんは、なんと2.7kgの減量に成功。しかも各人とも体脂肪も減少したと、番組は「にがりには劇的な減量効果がある」と強調。また、これみよがしにマグネシウムの過剰な摂取は下痢をおこしやすくなり、腎臓の弱い人は、ミネラルを多く摂りすぎると、上手く余分なミネラルを排出できないという問題が起こる可能性があると注意も促し、番組の信憑性を増す工夫もしていた。
 こうして、数年前から口コミで静かに伝播していた「にがりダイエット」は、科学的な根拠があるものとして、番組を見ていた人々は確信したのであった。そしてくだんのサラリーマンのように、にがりのボトルを持ち歩くまでになったのである。
 しかし、こうした過熱するブームを苦々しくみていた人々もいた。その一つが国立健康・栄養研究所で、本年7月21日に、「にがりと痩身効果について」と題して、下記のような警告を発表した。
 にがりは、海水を濃縮したときの塩を除いた残留物であり、その主成分は塩化マグネシウムです。昔から豆腐を作るときの凝固剤に利用されてきました。
 最近、にがりやマグネシウムに「痩身効果」があるという情報が流されています。例えば、「糖の吸収を遅らせる」「脂肪の吸収をブロックする」「糖質代謝を促進する」「エネルギー代謝を促進する」といったメカニズムから、ダイエット効果を論証するような情報がありますが、いずれについても確実な根拠・文献等はありません。また、マグネシウムは、医薬品では下剤として使用されており、食品であっても多量に摂取すると下痢になる可能性があります。しかし、下痢による一時的な体重変化は、主に必要な水分の減少によるもので、見かけの変化です(以下、略)。
 冷静に考えてみると、「発掘!あるある大事典」には、いくらかの不自然な点がある。公的な第三者機関の調査をベースにするのではなく、番組独自でかなり強引に調査を行い結論を出している。また、1週間で痩せたというが、どのような条件下で、どのような運動を課し、1日何キロカロリーの食物を摂取したのかという説明はない。
 番組がいうように「にがり」に誰もが劇的に痩せることができるという薬理作用があるなら、当然「にがり」は、処方箋がなければ買えない医療用薬品でなければならない。しかし、実際は大衆薬でさえなく、食塩と同じように誰もが自由に買うことができるのだ。この一点だけでも、国立健康・栄養研究所がいうように「にがりの痩身効果には根拠がない」ことは明白なように思われるのだが。(福山博)

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