東京ヘレン・ケラー協会会報 青い鳥 平成16年11月1日 第6号 社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会 〒169-0072東京都新宿区大久保3-14-20 本部、学院 電話03-3200-0525 点字図書館 電話03-3200-0987 点字出版所、盲人用具センター、海外盲人交流事業事務局 東京都新宿区大久保3-14-4 電話03-3200-1310 ガイドヘルパーの養成 新事業 11月下旬スタート  東京ヘレン・ケラー協会は、東京都訪問介護員養成研修事業実施要綱に基づいて東京都から事業者としての認可を受け、視覚障害者移動介護従事者(ガイドヘルパー)の養成研修に乗り出した。5月の理事会で定款を変更して新事業として取り組むことを決め、10月12日から受講生の募集を始めた。今年度は11月下旬に実施する。 全国の視覚障害者の数は、平成13年の厚生労働省の調査によると、30万1千人で横ばいとされる。幼時からの先天的な人が減る一方で、循環器系の病気や交通事故等による中途視覚障害者が増えていること、1・2級の重度障害者が全体の6割を占め、60歳以上の高齢者の割合が4分の3近い高率になっていることが、明らかになっている。自立、あるいは社会参加のために外出したいという希望者は年々、増加の一途をたどっているが、これに応えることのできるガイドヘルパーの数を確保できていないのが、実情である。 都盲協が全面協力  協会は、このような実態を踏まえて、ガイド技術はもちろん、視覚障害者の身になって考えることのできる質の高いガイドヘルパーの養成を始めることが急務と考え、理事会の決定を経て、7月に東京都に事業者指定を申請、9月27日、認可された。  この事業には東京都盲人福祉協会の全面的な協力を仰ぎ、定評のある講師陣をととのえた。ヘレン・ケラー学院内に事務局を置き、担当者と講師陣が、協会のバックボーンであるヘレン・ケラー女史の精神に沿った研修になるよう検討を重ねた。 演習時間たっぷり 16年度の開講は1回のみで、11月20日から28日までの土曜と日曜の計4日間、講義11時間、演習14時間の計25時間で、受講料3万7千円(教科書代等を含む)である。東京都が定めた事業実施要綱では「講義11時間、演習9時間」とされているが、「基本をしっかり 学び、利用者の個々の状況に臨機応変に対応できるように」と演習の時間をたっぷり取っているのが、特徴。講義と屋内の演習は東京ヘレン・ケラー協会3階ホールを使用し、屋外の演習は東京都バス車庫、JR新宿駅などで行う。  堀込藤一理事長は「利用者の立場に立って対応できるプロの名にふさわしいガイドヘルパーを送り出したい」と話している。 コラム「窓」  「いま少し活動の幅を広げたい」。3年ぶりに再開した点字図書館の点訳ボランティア養成講座の申込書に小松捷利(こまつ・かつとし)さんはこう書いた。電子メーカー営業マン卒業後、「いのちの電話」相談員、図書整理と、二つのボランティアを兼ねてきた。  今回の養成講座はパソコンを使えることを前提とした初の試み。小松さんは4月から7月まで15回の講座を「無欠席」で通した。  講座の修了生14人のうち13人が夏休み明けから勉強会を重ねている。67歳、黒1点の小松さんは、まとめ役に推された。「会名はクラブ・めめ、いやグループ・めめです」と茶目っ気たっぷり。「来春までには点字図書を1冊つくりたい」と張り切っている。 平成15年度事業報告と決算 平成15年度決算 (単位:円) 会計区分 収入額 支出額 繰越額  本部会計 2,913,881 2,853,302 60,579 (施設会計) 点字図書館 42,506,649 42,101,554 405,095 点字出版所 293,591,843 293,439,462 152,381 (特別会計) ヘレン・ケラー学院 57,315,961 57,222,486 93,475 盲人用具センター 5,380,548 5,761,138 △380,590 海外盲人交流事業 1,813,594 5,988,688 △4,175,094 総合収支 403,522,476 407,366,630 △3,844,154 平成15年度事業報告 [ヘレン・ケラー学院]  新入生は中卒課程6人、高卒課程9人で生徒総数は56人(前年度は55人)。  本館2階男女トイレ各1基を和式から洋式に改修し、段差を解消してバリアフリー化する工事を行った。経費総額 159万6千円のうち宮川高子記念障害者福祉基金から 150万円の助成を受けた。 [点字図書館] 東京都補助金の2年連続カットという異常事態のため、人件費の見直し、備品の寄贈先開拓などを進めた結果、3年ぶりに収支は改善された。図書製作・貸出は3年連続で前年度を上回った。 保有図書は点字10,640冊、録音15,231巻、 利用登録者は 1,479人。15年度の貸出は、77,732冊(巻)で、録音図書利用者のうちテープ図書からデイジー(CD)図書への移行が目立った。中途失明者の点字教室には前年度比29%増の延べ 690人が参加した。 [点字出版所] 点字図書単行本は「日本怪死人列伝」「女たちの流行歌」「プロジェクトX」「演歌 '03」など6タイトルを発行した。  教科書関係は文部科学省著作小学部用点字教科書「算数」(1〜6年)と「社会」(3〜6年)を製作、全国の盲学校へ発送した。同様に小学部用「家庭科5・6年」、中学部「技術・家庭 技術的分野 家庭的分野」を製作、発送した。理療科用教科書「生活と疾病 TA、TB」「地域理と理療経営」の各拡大活字版、点字版、デイジー版も発行した。  自治体委託の「点字広報」「声の広報」のほか民間委託の各種マニュアル点字版・録音版を作成した。月刊誌「点字ジャーナル」、月2回刊・生活情報点字雑誌「ライト&ライフ」を発行した。 [盲人用具センター]  墨字版「点字練習帳」が福祉専門学校、福祉学科を持つ大学・短大へのDM効果で売れ行き好調、「感光器」は盲 学校からの注文が多く、安定して売れた。センターニュースを発行し、販促に当たった。 [海外盲人交流事業]  ネパールでの事業はネパ−ル盲人福祉協会へ側面的支援を原則とするよう改めた。  寄付金と国際ボランティア貯金の14年度配分金残で、前年度並の予算を執行し、全国の視覚障害児ら1千人に点字教科書・副読本などを作成・無償配付した。また、寄宿制統合教育校在籍の視覚障害児66人の就学を保証・支援した。 初の点字版「世界遺産」出版  家に居ながら「世界遺産」を楽しんでもらおうと、点字出版所が点字版「世界遺産」 を10月に出版した。全 754件(6月現在)を一挙掲載した点字版は国内では初めて。 変型A3判 384ページ、クロス張り上製本。内容は独自編集。協会は全国の86点字図書館と71盲学校に寄贈した。点字図書館には読者への郵送用特製郵袋も付けた。 この出版は、固型点字インキのメーカー日本新聞インキ株式会社の創立60周年記念事業の一環として同社からの費用全額助成によって実現した。 平成16年度事業計画と予算 平成16年度事業計画  ヘレン・ケラー学院は教育効果を高めるための諸計画、点字図書館は録音図書製作デジタル化用機器の整備、点字出版所は参院選「点字版選挙広報」 発行が16年度の重点事業である。 平成16年度予算(単位:千円) 会計区分 予算額 前年度額 差引増減 本部会計 4,694 2,815 1,879 (施設会計) 点字図書館 38,931 42,162 △3,231 点字出版所 251,400 290,170 △38,770 (特別会計) ヘレン・ケラー学院 57,004 57,297 △293 盲人用具センター 4,300 4,000 300 海外盲人交流事業 1,700 6,080 △4,380 総合収支 358,029 402,524 △44,495 出版所は自動製版体制に完全移行しました  開設以来35年にわたり、足踏み機に頼ってきた点字出版所のエンボス式製版作業が自動製版体制に移行した。作業体制改善と製版士の腰痛防止が狙い。  移行には、最低、自動製版機3台、点字プリンタ−4台が必要。しかし、高額な機械なので、長期計画のもとに、財団法人中央競馬馬主社会福祉財団(以下馬主財団)から助成を得て、関連機械を1台ずつ揃えてきた。  その仕上げとして、馬主財団から平成15年度事業で、点字ラインプリンタ−1台、パソコン13台、総額 608万円のうち 433万円の助成金が交付され、16年2月に長年の夢だった自動製版体制に完全移行し、製版作業の近代化を実現した。 学院にPC教室誕生  ヘレン・ケラー学院にパソコン教室が4月に誕生した。3階の9番教室。教師用1台、生徒用4台の新しいパソコンが配備された。いずれもデスクトップの最新型。  これは、あ・は・き師養成施設のカリキュラムが改正され、新たに「情報処理」の教科が加わったことに伴う措置。IT時代を迎えて、生徒が患者のカルテの処理、新しい治療法の検索などに対処できるようにするのが目的である。  授業時間は1、2年生が週1時間、授業はローマ字入力の方法からスタート。キーボードに慣れ、音声ソフトを使って文章を打ち込む力を付けるのが、当面の目標だ。  生徒の中にはパソコン処理能力が高く、先生の補助的役割をする者もいて、互いに助けたり、助けられたり。普段の授業とは違った活発な教室風景が展開している。  このパソコン設備は、付帯工事を含めて総額 190万円。うち 100万円を、みずほ福祉財団から助成を受けた。 「卒業生の就職支援も」 学院同窓会総会で玉住会長  平成16年度のヘレン・ケラー学院同窓会(会員1500人)は、ヘレン・ケラー女史誕生日の6月27日午前11時から協会3階ホールで開かれた。  参加者約80人、田中好子さん(昭和42年はき科卒)の司会で始まった。玉住博会長が「同窓会は互いの親睦を深め、仕事と生活の向上を図るためにあります。学院との連携を強め、卒業生に就職などにも役に立つ組織にしたい」と挨拶。 続いて根本博行・全日本鍼灸マッサージ師会副会長(昭和37年はき科卒)が「あ・は・き(あん摩マッサージ指圧師、はり師きゅう師)への健康保険適用問題と無資格診療の対策」について講演した。 議事のあと、2時間にわたり、卒業年次、年齢を超えて、語り合った。 グランプリは上田信幸さん 第53回音コン ピアノの水準、高まる 第53回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール(第50回まで全日本盲学生音楽コンクール)は協会主催、文部科学省、毎日新聞社など後援で、15年11月23日、東京都新宿区の新宿文化センター小ホールで開かれ、1都1府4県から10校47人が参加した。 コンクールは長年、審査員として尽力された故寺西春雄桐朋音楽大名誉教授に黙祷を捧げたあと、始まった。ピアノ部門は、参加者11人の中から千葉県立盲学校中学部1年の中西良輔さんが1位に入賞した。前回、13組14人も参加して、音楽の裾野の広がりを示したのに続き、今回は演奏のレベルが高まったのが収穫。「最も感銘を与えた演奏・歌唱」に贈られるヘレン・ケラー賞は、独唱2部1位の筑波大附属盲学校専攻科1年の上田信幸さんが獲得した。 音楽評論家の岩井宏之、藤田由之両氏とこのコンクール出身で、鍵盤楽器演奏など幅広く活躍する武久源造氏が、審査に当たった。入賞者は次の通り(敬称略)。 【ピアノの部】 1位 中西良輔(県立千葉盲・中1) 2位 高橋佑輔(県立山形盲・高1) 3位 生島唯斗(東京都立葛飾盲・小2) 奨励賞 神作悦穂(ヘレン・ケラー学院1)、佐藤恵子(京都府立盲・専3)、勝島佑太(武蔵野音楽大1) 【弦楽器の部】 2位 横山響子(県立岐阜盲・中1) 【その他の楽器の部】 該当者なし 【独唱2部】 1位 上田信幸(筑波大附属盲・専1) 【重唱・合唱の部】 奨励賞 ヘレン・ケラー学院、埼玉県立盲学校 今年も11月23日開催です  第54回ヘレン・ケラー記念音楽コンクールは下記の通り開催します。  11月23日(祝)午前11時から東京都新宿区の新宿文化センターで開催を予定。一般のみなさまのご来場、歓迎です。(無料) 第12回ヘレンケラー・サリバン賞 NHKラジオ番組「視覚障害者のみなさんへ」が受賞   「ヘレンケラー・サリバン賞」の16年度(第12回)受賞者は日本放送協会(NHK)ラジオ番組(第2放送)「視覚障害者のみなさんへ」に決定した。授賞式は10月4日、当協会3階ホールで行われ堀込藤一理事長からNHK教育番組センターの船越雄一部長に賞状とヘレン・ケラー女史のサインを刻んだクリスタルトロフィーが贈られた。  この番組は昭和39年4月に「盲人の時間」として始まり、平成3年に現在の番組名に変更。日曜朝(前週の再放送)と夜7時30分からの番組は、40年間にわたって視覚障害者に情報を発信し続けている。「毎週楽しみにしているんです。本当に生きる勇気を与えられ ます」と話す視覚障害者が少なくないだけでなく、視覚障害者の世界にかかわりを持つ晴眼者も一目置く、存在感のある番組である。 この番組の制作責任者である迫田朋子チーフディレクターは「視覚障害者の駅ホームからの転落事故、無年金問題など普通のニュースでは、あまり取り上げられない問題を扱ってきました。これからはラジオとテレビの連携にも力を入れたい」と、あくまでも前向き だった。