東京ヘレン・ケラー協会会報『青い鳥(L'Oiseau bleu)』 第37号 2021年2月5日発行 発行人:奥村博史 編集人:福山博 製作:広報委員会 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会(Established in 1950) 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-20 本部、ヘレン・ケラー学院 電話 03(3200)0525 FAX 03(3200)0608 点字図書館 電話 03(3200)0987 FAX 03(3200)0982 点字出版所、盲人用具センター、海外盲人事業交流事務局 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4 電話 03(3200)1310 FAX 03(3200)2582 ●あはき師の養成から就労支援への転換 ―― 創立70周年の決断 ―― 理事長 奥村博史  新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)は、2021年が明けても終息が見えません。その被害、影響は2009年の新型インフルエンザによる直近のパンデミックとは比較にならないほど大きく、社会のあらゆる弱点を浮き彫りにしました。2020年は世界史の転換点になりそうです。そんな年に創立70周年を迎えた当協会も、一つの時代を画する決議をしました。  創立以来の主たる事業である、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師(あはき師)の養成施設・専修学校であるヘレン・ケラー学院の2021年度新入生の募集を停止し、併せて、新しい福祉事業への転換を図っていこうと決めました。  学院は近い将来、閉校することになりますが、現1〜5年の在校生全員が卒業・修了するまで現行カリキュラムで存続させます。並行して、障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスである就労継続支援B型事業所の開設を目指す計画です。  学院を閉じる最大の理由は、学生数の激減です。全国の視覚特別支援学校(盲学校)でも、生徒の減少は深刻な問題となっていますが、当学院も例外ではありません。1990年度は91人だった学生数は、2000年度には63人、2010年度には40人と推移し、2020年度は19人です。  減少した要因の第一は、急速な少子高齢化です。社会福祉法人日本盲人福祉委員会が5年おきに発行する『日本の視覚障害者2018年版』によりますと、1996年〜2016年の20年間で、身体障害者全体の手帳所持者数は301万4000人から428万7000人と増えているのに比べ、視覚障害者のそれは31万1000人から31万2000人とほぼ横ばいです。  その理由として「視覚障害の原因となる疾病の予防と治療の進歩」を挙げています。それ自体は大変喜ばしいことですが、視覚障害者の年齢構成は、65歳以上が21万5000人と全体の68.93%を占めます。今後も学生数の減少は必至です。  第二に、視覚障害者の職種拡大と、晴眼者のあはき業への進出です。あはきは、江戸時代から視覚障害者に適した職業として発展してきましたが、特に近年、健康志向の高まりもあり、晴眼者にとっても人気の職業となりました。厚生労働省の調査では、2018年時点のあはき就業者の全国総数は、あん摩マッサージ指圧師が11万8916人、はり師が12万1757人、きゅう師が11万9796人で、このうち視覚障害者の割合はそれぞれ、22.6%、12.5%、12.2%です。就業者の多くを晴眼者が占めるようになってきたのが現実です。  当協会は視覚障害者の自立支援ひと筋に、さまざまな事業を展開してきました。あはき師養成施設を取り巻くこうした厳しい環境の中にあって、改めて求められる協会の役割は何か、理事や監事を含めて議論してきました。結論として、新たな社会的使命として目指すのが、就職の困難な視覚障害あはき師らに対し、就労の機会を支援するために施術設備などを提供することです。  開設場所は、3階建て一部2階建ての当学院1階の活用を考えています。開設に向けた関係機関との協議をはじめ、必要な改築といった準備を進めていく2021年度は、大変重要な時期となります。  障害者総合支援法に基づく就労継続支援B型事業所は、都内に800カ所以上ありますが、当協会が計画するような、あはき師を主な利用者とする所はまだありません。  実現に向けて手探りで準備を始めたばかりですが、先人が高く掲げたヘレン・ケラー女史の博愛精神はしっかりと受け継いでいかなければならないと決意を新たにしています。  なにとぞ変わらぬご指導ご支援を賜りますようお願い申し上げます。 ●2020年度ヘレンケラー・サリバン賞は 関西盲人ホーム理事・施設長の山口規子(やまぐち・のりこ)さん  第28回「ヘレンケラー・サリバン賞」は、関西盲人ホーム理事・施設長で、そのかたわら歩行訓練士として日本歩行訓練士会、視覚障害リハビリテーション協会等でも活躍する山口規子さんに決定しました。  贈賞式は10月7日(水)協会ホールで行われ、本賞(賞状)と副賞として、ヘレン・ケラー女史直筆のサインを刻印したクリスタル・トロフィーが贈られました。  山口規子さんは1987(昭和62)年に関西盲人ホームに事務員兼指導員として入職しました。  同ホームは、1930(昭和5)年に盲婦人の越岡ふみ氏(1899〜1967)を中心に、『点字毎日』編集長で、当協会の理事も務められた全盲の中村京太郎先生(1880〜1964)のバックアップを得て、盲婦人が相互扶助の生活を行い、外来者に鍼・あん摩・マッサージを施術して、自立への研鑚をはかる施設として設立されました。  山口さんは1992(平成4)年11月歩行訓練士の資格を得ました。また、1998(平成10)年10月からは歩行訓練士として、ガイドヘルパー(同行援護従業者)養成研修の講師も行っています。  本業の盲人ホームでは、33年間で約90人の視覚障害女性の自立を支援してきました。  本業外の歩行訓練士としては、活動拠点の兵庫県西宮市のみならず、歩行訓練士がいない兵庫県の郡部、淡路島や日本海側の各地に至るまで、困っている視覚障害者に歩行訓練を実施し、単独歩行が可能となり自立したり、職場復帰できた視覚障害者は西宮市で138人、兵庫県全域で約200人におよびます。 ●文科省著作教科書リモート編集会議  7月中旬から8月下旬にかけて、文部科学省(文科省)著作教科書の編集会議が行われました。従来から会議は、文科省庁舎に各科目の編集委員が全国から集まって行っています。新型コロナウイルスが流行したため、3密回避などの対策をとった上で、今年度も、文科省に集まって会議を行う予定 でした。しかし、初回こそ全科目の編集委員が文科省に集まりましたが、その後、東京での新規感染者数が連日最多を更新するなど急増したため、2回目以降の会議は、すべてオンラインによるリモート会議となりました。  会議がオンラインになっただけではなく、現行の点字教科書を発行した点字出版所職員が編集委員(当協会は「歴史」「道徳」)に加わったという変化も今年はありました。今まで点字出版所職員は教科書の編集委員になれず、編集委員は盲学校の教師たちが占めていました。そのため、編集資料に書き込まれている指示だけでは点訳の際に必要となる情報が不十分で、細かなレイアウトなどは教師に聞き直すという二度手間が多く生じていました。  今回から点字出版所職員が編集委員に加わったことで、気になった箇所を予め聞いておいたり、書き込みの文字色を変えて編集指示をより明確に出来たりと、多くの要望を出すことが出来ました。  教師側も前回と墨字レイアウトが異なる部分をひとまず出版所に点訳してもらって、そこからレイアウトの議論が広がったりと、互いにメリットがあるように思えました。また、社会科は地理・歴史・公民と3分野に分かれており、同じ教科書会社のものを別の出版社が分野毎に点訳しますが、記号などは3分野共通のものもあります。その書き方をどうするかといったことは、各分野だけでなく、出版所間で話し合ったりといった連携もありました。  写真は省略して文字で補うので、その文章を考えるといった実際の編集作業は出版所の委員は行いませんが、点訳に必要な情報については、出版所の意向が多く取り入れられ、より良い編集資料になっているものと期待しております。 ●雑排水配管一部切替工事  8月26日(水)、点字出版所の印刷課員が新館1階GPB-3平板点字印刷室の天井に漏水を発見したので、水道工事会社に調査を依頼しました。  すると1階天井裏から1階を通過し、地下まで行っている縦の配管、特に地下から横に延びている配管に問題があることが判明しました。さらに今後のつまり等を考えると、屋内の排水管を太くする必要もありました。  それに伴い、屋外排水マスを以前のものより大きくしなければならず、郵便局側ドアから出たところで騒音が出る掘削工事を行う必要があり、思わぬ大工事になりました。  工事名は「新館1階点字出版所印刷室天井裏2階点字図書館床下の排水管切替工事」で、新宿北郵便局並びに近隣の団地、マンション、毎日新聞社早稲田別館に騒音工事の説明にまわりました。  掘削工事は8月29日(土)、30日(日)の2日間で行われ、1階天井裏の配管工事は9月4日(金)、5日(土)で行い、6日(日)に1階天井裏から屋外への配管の工事を行いました。屋外の排水マス埋設工事は12日(土)〜14日(月)に行い、15日(火)に業者より引き渡されました。  猛暑の中、工事は合計11日間行われました。 ●本館一部の外壁改修  本館西側と東側一部の外壁を改修しました。塗装の劣化やコンクリート内部の鉄筋の腐食・膨張で亀裂が入るなど傷みが激しく、複数個所の雨漏りの原因にもなっていました。  工事は主に夏休み期間を利用し、落下の恐れのある外壁のレンガ部分などにピンを打ちこんだりネットをかぶせたりして補強し、全体を塗装しました。また、鉄製枠が原因でひび割れていた 窓ガラスもアルミサッシに取り換えるなどし、2013年に実施した耐震工事以来の大規模な改修となりました。  工費は税込み約2000万円で、公益財団法人東京都私学財団の「非構造部材耐震対策工事費助成事業」の対象に認められ、2分の1の助成金を受けました。また、施工会社のご厚意により、2階部分屋上の防水シートを貼り替え、さらに、緊急時避難路となっている2階ベランダの手すりをロービジョンの人が識別しやすいよう、周囲とコントラストをつけた濃色に塗り直しました。 ●外構工事  本館改修工事に先立ち、外構工事を行いました。本館改修のために足場を組む前の6月に着工し、休日を利用しながら夏休み中にほぼ工事を終えました。工事の目的は、緊急時における複数の避難経路の確保です。これまで、新館や毎日新聞社早稲田別館と本館との動線となっている中庭には避難誘導路はありませんでした。  工事ではまず、本館西側エントランスの植栽を撤去して透水性レンガを敷き、出入り口や職員通用口に誘導する点字ブロックを敷設しました。  さらに中庭については、創立50周年記念樹など2本を残し、避難の際の通行を妨げる植栽を撤去。水はけに難もあった土の代わりに緩やかな傾斜をつけた土間コンクリートを打って段差を解消し、バリアフリーにしました。そのうえで、職員通用口や明治通り側門扉に誘導する点字ブロックを設置しました。中庭にある盲導犬用トイレへの点字ブロックも設けました。  工費は税込み約670万円で、公益財団法人あすなろ福祉財団から300万円の助成金を得ました。 ●『点字ジャーナル』講演会 ―― 『新版 絵はがきにされた少年』とコロナ下の世界 ――  11月11日(水)午後4時〜5時半、協会ホールで毎日新聞記者の藤原章生さんによる講演会(トークショー)を開催しました。  ホールの定員は70人ですが、密集を避けるため35人に限定しました。その上で参加者にはマスクをつけてもらい、係員が協会玄関で体温を 測定し、抗菌スリッパに履き替えてもらい、アルコールによる手指消毒を行いました。  当時、毎日新聞ローマ支局長であった藤原さんにお願いして、2009(平成21)年7月号の『点字ジャーナル』から、「自分が変わること」のコーナータイトルで連載を開始していただき、以来、11年余が過ぎました。  藤原さんは2005(平成17)年11月に集英社から上梓した『絵はがきにされた少年』で、開高健ノンフィクション賞を受賞されましたが、このたび同書を改稿し、『新版 絵はがきにされた少年』として、10月28日に柏艪舎から出版されました。  コロナ下の米国で始まり、世界に広がり続ける反差別運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」からも明らかなように、差別や人種偏見は一向に改まりそうにありません。むしろ、悪化したという声もあるほどです。  肌の色や骨格、言葉、宗教、文化の違いや障害などを理由にした差別。この不寛容さ、人間の悪弊がなくなる日は来るのでしょうか。そもそも差別する心はどこかで生まれるのでしょうか ――。  そんな人類史的な問いをベースに、アフリカの賢者とさえ思える人々の語りを中心に藤原さんが紹介することで、人間について考えました。 ●スリッパ殺菌ディスペンサーを設置  下記の通り、ご助成を受けて完了いたしました。  誠にありがとうございました。 一、事業名 臨床実習外来患者用スリッパ殺菌ディスペンサーの購入 一、総事業費 201,900円 一、助成額 200,000円 一、完了日 令和2年10月13日  新型コロナウイルス感染症対策として、臨床実習で外来患者が使用するためのスリッパ殺菌ディスペンサーの購入費用を、社会福祉法人新宿区社会福祉協議会 備品整備・施設整備 (株)日本財託様にご助成いただきました。  今まで臨床実習で使用していたスリッパは抗菌加工されていないものでした。また、学院内1階廊下や実習室Bの床面は定期的に次亜塩素酸水で洗浄していますが、それだけでは十分とは言えない状況だったので、抗菌加工されたスリッパを使用いただくことで、少しでも安心して施術を受けていただけるように思います。  この機器には、10足のスリッパが入っており、約2分で抗菌加工が施されます。ボタン一つでスリッパ1足分が自動排出され、使用後は、所定位置に置くと自動で本体機器に収納されます。  抗菌スリッパには「青い鳥」のマークを印字しました。  外来患者と学生の接触リスクを避けるためには、施術室に向かう動線を分けた方が良いのですが、学院ではなかなか難しい状況にあるため、今後も目に見えるものから改善していきたいと考えています。 ●点字選挙公報オンライン研修会  9月2日(水)午後1時〜4時、社会福祉法人日本盲人福祉委員会選挙プロジェクト「衆院選点字選挙公報製作研修会」が、開催されました。  前回までは、東京と大阪の2会場に分かれて対面で実施しましたが、今回の研修会は、新型コロナウイルス感染防止のため、全国各地の施設をオンライン会議システムの「Zoom」で結んだ、初の試みのバーチャル研修会となりました。  当日、当協会点字出版所では、A班:編集室に田辺、雨宮、戸塚、宮内、小栗。B班:3階会議室に安達、水野、青木、佐藤晃大。C班:点訳室に吉良、佐藤尊礼、佐久間、丸山。D班:1階会議室に福山、外ア、津田、高橋の各氏がパソコンの前に集合し、研修会に参加しました。  研修会は、日本ライトハウスの福井哲也氏の司会進行で行われ、伊藤宣真(日本点字図書館)視覚障害者選挙情報支援プロジェクト点字版部会長の挨拶から始まりました。続いて、中山敬(日本視覚障害者団体連合=日視連)点字版部会事務局長がプロジェクトの作業の流れと注意事項を説明。日本点字図書館の和田勉氏が、比例区と審査の原稿についての手順を発表しました。  続いて点字毎日の濱井良文氏が、点字毎日の最終校正について説明。選挙公報点字表記委員会委員長の渡辺昭一氏(日視連)が表記委員会から報告。休憩を挟んで、名古屋ライトハウスの森幸久氏が、選挙公報の書式について、兵庫県視覚障害者福祉協会の仁枝玲子氏が選挙公報の点字表記について説明しました。  出席者からは、目次の点線の書き方についての質問やQRコードの点訳等について質問がありました。QRコードの処理については、選管に相談して対応することになりました。  今回は、初のオンライン研修で、一部の講演者のマイクの調子が悪かったのか、聞き取りにくい場面もあり、次回の課題となりました。  コロナ禍における全国的な研修会や会議は、従来の実際に会場に集まる形の開催から、今後はオンラインによるミーティングが主流になるだろうと思われました。 ●卒業生の就業状況アンケート調査 ―― コロナ禍の就職支援セミナーに代えて ――  4回目となるヘレン・ケラー学院就職支援セミナーは、『コロナ禍における卒業生の活躍状況』と題し「就業状況」「治療、または日常生活においての感染症対策」「コロナ後の意識の変化」などについて卒業生にアンケート調査を行い、その結果を学生と教師に公開しました。     【調査方法等】  対象者:32人(2010年以降の卒業生よりランダムに抽出)。  調査方法:アンケートを送信し、Eメールまたは電話で回答を回収。  調査期間:8月6日から14日の9日間。     【回答の概要】  回答数:20人(回答率62.5%)。  現在の就業状況:ヘルスキーパー11人、開業3人、治療院勤務2人、リラクゼーションサロン勤務1人、教員養成課程在籍1人、盲人ホーム・訓練機関通所2人。  就業状況:変化あり16人(80%)。変化なし3人(15%)。無回答1人(5%)。  収入面について:変化あり4人(20%)。変化なし13人(65%)。無回答3人(15%)。     【質問項目】  1-1.現在の状況をお聞かせください。  例:ヘルスキーパー、特別養護老人ホーム、訪問マッサージ、開業(または開業準備中)、学生(教員養成課程在籍)、盲人ホームまたは訓練機関在籍、その他。  1-2.勤務している方は、就業年限を教えてください。  1-3.学生、盲人ホームや訓練機関に在籍している方は、在籍期間を教えてください。  2-1.コロナによって就業時間に変化はありましたか。(学生や訓練機関に在籍している場合は、その環境に置き換えてご回答ください)  2-2.変化のあった方に、2点お聞きします。  @どんな変化がありましたか。(時短勤務、出勤日数制限、自宅待機など)  A待遇面(給与や雇用形態)に変化はありましたか。(更新を保留にされている。給与を減額されたなど)  2-3.変化のない方にお聞きします。就業時間に変化がなくても待遇面に変化はありましたか。  3.コロナ禍において、施術や治療行為に制限が生じている場合は、その内容をお聞かせください。  例:企業従業員が在宅となり、施術できる人が少なくなった。鍼治療ができなくなったなど。  4.治療行為において、コロナ対策を講じている内容をお聞かせください。  例:マスクとフェイスシールドを付けて治療している。治療後にベッド類の消毒を行っている。1日の枠を半分に削ったなど。  5.日常生活において、コロナ対策を講じている内容をお聞かせください。  例:移動時は白手袋をしている。外出時は、消毒薬を常備している。自宅に籠るようになったなど。  6.コロナによって生じている、マイナス面、プラス面があれば教えてください。  例:マスクや消毒薬が手に入らない。感染リスクによる患者離れが進んでいる。必要以上に感染対策を講じているため、患者からの信頼が高まっているなど。  7.在校生に対してのアドバイスがあれば教えてください。 以上     アンケートのまとめ ヘルスキーパーとして活躍する方は、「在宅勤務(自宅研修)」という回答が最も多かった。そのような環境下でも、スタッフ同士で主訴を決め、それに対するアプローチを作成したり、コミュニケーション関連の書籍を読んでレポートを提出したり、職場に『健康マガジン』を配信するための原稿を作成したりするなど、マッサージルームで仕事ができなくても、できる業務を探し、あはき師としてできることを積極的にこなす姿勢を強調する例が多かった。 開業している方は、持続化給付金の申請を行い、感染症対策を徹底しながら営業を続けている例が多かった。しかし、予約率の低下が続いているようで、「忍耐の時期」と切り替えている様子がうかがえた。 治療院勤務の方は、予約が入らない日が続くなど苦境を強いられている状況にあるようだったが、メンバー同士で技術を高めあうなど、「腕を磨く時間に充てている」などの回答があった。  設問に対する回答率が高かったのが、「7.在校生に対してのアドバイスがあれば教えてください」で、以下に紹介する。  「様々な情報でいろんな流れが変わってきているが、惑わされず、卒業までは目標達成することだけに集中してほしい。そして、卒業後速やかに世の中の変化に対応できるよう常に勉強を続け、こういう時でも求められる人材になれるよう頑張ってください」。  「今後は、職業の多様性や変化も求められる可能性があるので、パソコン操作に困ることがないよう、操作に慣れておくことをお勧めします」。  「自分次第で職場の状況は変えられるということを伝えたい。技術向上のため、足もみやリンパケアの認定講習を受けるなど、興味のあるものに参加している。すべては、学生生活で培ったベースがあることが前提で今があるということ。基本を忘れず日々の勉強に励んでほしい」。  「こういう時代だから、焦らずに日々を過ごし、与えられた環境でベストを尽くしてください。技術に走らず、基本に忠実にあるべきと思います。学院で学ぶ技術は、全ての根底になります。実技はとにかく真剣に学び、臨床は患者と真摯に向き合うことを心がけてください。卒業後は、そこに肉付けしていくのです。学生、患者、教師、接する全ての人とのコミュニケーションをおろそかにせず、日々を過ごしてください。また、相手の意図を汲み取ることも必要です」などの温かいメッセージが、多く寄せられた。 ●採用:点字出版所2020年10 月1日=小俣三郎、11月1日=加藤杏奈 ●コロナ禍の中での『日盲社協通信』の発行  毎年4月と11月の年2回、日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)は、機関誌である『日盲社協通信』を発行しています。  その点字版は、日盲社協傘下施設の佐賀ライトハウス六星館、ワークスペースこすもす、桜雲会、点字民報社の4施設が輪番で担当しています。これ以外にも点字版に関しては、引受手は幾らでもあるのですが、その前段階の墨字版編集を引き受ける所はなく、過去には執筆者の生原稿が印刷所にそのまま出稿され大混乱が起きたとも聞きます。このため2011年11月号(通巻63号)から当点字出版所が引き受けることになりました。  日盲社協の事業は、毎年6月に行われる福祉施設大会と5事業部会が行う職員研修会等の年間行事に関係したルーティンワークが柱です。このため、『日盲社協通信』の編集も2年目からは割付やレイアウトにそれほど気を遣わなくとも比較的容易にできましたが、今年はコロナ禍のため勝手が違いました。  2020年4月号(通巻80号)は最終校正の段階で編集作業にストップがかかりました。というのは、6 月 18・19 の両日、滋賀県彦根市において開催予定の第 68 回全国盲人福祉施設大会(滋賀大会)を実施するかどうか? これから常務理事会や理事会で議論するということだったのです。  結局、理事会で中止が決まり、あわただしく差換原稿を作成して印刷所に出稿しました。  問題は『日盲社協通信』2020年11月号(通巻81号)でした。  例年11月号は、コンテンツの半分近くを全国盲人福祉施設大会と各部会が主催する研修会で埋まるのですが、2020年度はそれらはすべて中止されたのです。  そこで、日盲社協の理事長と二人の常務理事によるZoomによるオンライン座談会を企画し、早々と9月8日午後1時から実施しました。  そして、座談会に必要な紙幅を決めてから、割付を確定し、他の原稿の執筆依頼を行おうと考えたのです。そして、結局、そのやり方が正解でうまくいきました。とにかく困ったときには、仕事を前倒しにするに限るようです。  なお、『日盲社協通信』のPDFファイル版とテキスト版は「日盲社協」のホームページから誰でもダウンロードして読むことができますので、ぜひご覧ください。 ●「協会のあゆみ」を刊行  当協会の母体は1940(昭和15)年10月3日に設立された(財)東京盲人会館なので当協会は2020年で創基80周年を迎えました。  そして同会館と、ヘレン・ケラー・キャンペーン委員会が統合して、当協会の前身である(財)東日本ヘレン・ケラー財団が発足したのは、1950(昭和25)年4月1日なので、当協会は2020年で設立70周年を迎えたのでした。  本来であれば、記念イベントも実施したいところでしたが、あいにくのコロナ禍により、11月14日(土)にトッパンホールで開催を予定していた「第70回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール」さえも中止せざるを得ませんでした。例年法人をあげて実施してきた伝統あるイベントであり、なにより参加者である視覚障害児童・生徒・学生はこの日を目指して日々猛練習に励んできたはずなのでまことに申し訳ないことです。  事実上、唯一の記念事業として『視覚障害者とともに 創基80周年/設立70周年 東京ヘレン・ケラー協会のあゆみ』と銘打った記念誌を今年度事業として刊行します。 ●編集後記  昨年(2020)年1月頃は雪国の観光地は雪不足で悲鳴をあげていましたが、今年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で観光客は激減。それに追い打ちをかけるような豪雪で、昨年とはまったく違った悲鳴があがっています。  本紙「コロナ禍の中での『日盲社協通信』の発行」の記事中で大会や研修会といったイベント中止による穴埋めをどうしたか、その苦心と工夫について少し触れました。  実は小紙も通常であれば当然掲載するヘレン・ケラー記念音楽コンクール、自衛消防訓練、点字図書館のボランティア懇親会、ヘレン・ケラー学院の職場見学・遠足、それにネパール出張報告等の記事が軒並みなくなりました。  同様のことは、月刊誌『点字ジャーナル』や海外盲人交流事業のニュースレター『Light of Love(愛の光通信)』でも起きたことでした。  コロナ禍の中で否応なくZoomに代表されるオンラインミーティングシステムを活用せざるを得ず、それで大いに助かったことも一度ならずあります。しかし、それではZoomは万能かといえばそれはまったく違うというしかありません。  オンラインミーティングや取材は、バーチャルな仮想空間での対話であり、会議でしかありませんので、対面する迫力には遠く及ばないのです。  双方があらかじめ資料等を用意して充分な準備をして臨むなら、あらかじめ想定された範囲内での成果はあがるでしょう。しかし、双方が刺激し合い、瓢箪から駒が出るなどの想定以上の成果をあげるということは、まったく期待できません。  それは「電話ではそれ以上のことは言えないよ」と言われることと同じことです。誰が聞いているかわからないところで、意識の共有、聞き手の反応の確認、一体感づくりはできないので、建前ばかりを聞くことになり、本音はなかなか出てこないのは当たり前の話です。  その昔、電話取材でお茶を濁すと、先輩から異口同音に「足で稼げ」と叱責されました。つまり現地を実際に訪れて、情報を得たり関係を築いたりすることに勝る取材はないというわけです。いい加減な取材で経費や時間の節約をしていたつもりの駆け出しには耳に痛い指摘でした。(福山博) 広報委員会 委員長:福山博(理事・点字出版所長) 委員:大久保美智子(ヘレン・ケラー学院) 委員:戸塚辰永(点字出版所編集課) 委員:佐久間朋(点字出版所製版課) 委員:和泉枝里(点字図書館) 委員:森本環(点字出版所録音課) --------- “視覚障害者と共に” 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会 ホームページもご覧ください。 http://www.thka.jp ----------