東京ヘレン・ケラー協会会報『青い鳥(L'Oiseau bleu)』 第34号 2019年7月18日発行 発行人:馬塲敬二 編集人:福山博 製作:広報委員会 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会(Established in 1950) 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-20 本部、ヘレン・ケラー学院 電話 03(3200)0525 FAX 03(3200)0608 点字図書館 電話 03(3200)0987 FAX 03(3200)0982 点字出版所、盲人用具センター、海外盲人事業交流事務局 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4 電話 03(3200)1310 FAX 03(3200)2582 ●新理事長に奥村博史(おくむら・ひろし)毎日新聞元編集委員  東京ヘレン・ケラー協会は、6月11日(金)午前11時から定時評議員会(令和元年度第1回評議員会)を開き、平成30年度事業報告及び決算、役員等報酬規程を原案通り承認した。  また、理事・監事の選任について審議し、馬塲敬二理事(理事長)が退任の意向を示し、代わりの理事に、毎日新聞社特別嘱託の奥村博史氏を全会一致で選出した。  奥村博史氏は、1956年愛知県生まれの63歳。明治大学法学部法律学科卒業。毎日新聞中部本社報道部記者、甲府支局長、出版局新雑誌編集部長兼出版企画室長、中部本社代表室長、東京本社編集編成局編集委員などを歴任。6月30日付退社。  同氏以外の理事・監事候補者は留任だが、候補者ごとに賛否を問い承認された。  同日午後1時から理事会(令和元年度第2回理事会)が開かれ、理事長に奥村博史氏が、業務執行理事に福山博点字出版所長が選任された。 ●新時代に向かってさらなる発展のために ―― 理事長就任にあたって ―― 奥村 博史  6月20日の毎日新聞朝刊「おんなの気持ち」に「幸福の青い鳥」と題した投書が載りました。  投稿者は埼玉県春日部市に住む82歳の女性。「小学生の孫がヘレン・ケラーの話を始めたので、戦後間もない小学生時代を思い出しました。日本に来たヘレン・ケラーにおいしいクッキーをいただいたことが忘れられない」といい、このとき「ヘレン・ケラーの歌(幸福の青い鳥)」を歌ったそうです。  70年を経て「(歌詞を)半分くらいしか覚えていません」。ところが、趣味の短歌の会で出会った同年代の方が、北海道の小学校で習ったというこの歌を今も暗唱できることを知り、ご自身も改めて覚えることができた ―― というお話です。  1948年8月29日に再来日したヘレン・ケラー女史が滞在した59日間、全国各地の人々が女史とのふれあいを胸に刻んだ事実を表すエピソードです。「貴重な思い出」(投稿者)として、こうして語り継がれることに女史の偉大さを思わずにはいられません。  この来日を機に、女史の名を冠して設立された財団、後の東京ヘレン・ケラー協会の運営に関わる責任の重さと、協会を構成するヘレン・ケラー学院、点字出版所、点字図書館のスタッフの熱意をひしひしと感じます。  来年はヘレン・ケラー女史生誕140年、当協会創立70周年という節目を迎えます。その歩みに思いをいたすとともに、新しい時代に向かって、この意義ある協会のさらなる発展のために微力を尽くす所存です。  どうぞよろしくお願いいたします。 ●退任挨拶 馬塲敬二  あっという間の2年間でした。一身上の都合で週5日勤務が困難になり、理事長と学院長職を退きました。ヘレン・ケラー学院の先生方をはじめ、いろいろな方に大変お世話になりました。ありがとうございます。  時代は平成から令和へ変わりました。しかし、どんどん進む少子高齢化と一極集中・過疎、それに経済の停滞は相変わらずです。こうした変化により、社会福祉予算のあり方も否応なく変わっていくでしょう。  すでにヘレン・ケラー学院は長期的な学生減少から厳しい環境にありますが、点字図書館、点字出版所も安泰としてはいられません。  といっても、当協会には優秀な人材がそろっています。長い伝統に裏打ちされた社会的信用もあります。後任の奥村博史氏は、私と違って性格温厚、頭脳明晰です。今後、協会は奥村新理事長を中心に、新たな道を切り開いていく、と確信しています。  お世話になりました。 ●役員等紹介     理事  奥村博史 東京ヘレン・ケラー協会理事長  福山博 東京ヘレン・ケラー協会点字出版所長  横山晴夫 (株)ワールドスチューデントヴィレッジ代表取締役、NPO法人共生ネットワーク理事長  楯香津美 弁護士、青山学院常務理事  渡部聡 毎日新聞東京社会事業団常務理事  松上文彦 元毎日新聞紙面審査委員長・編集局次長     監事  多久島耕治 弁護士、(福)都心会理事長  稲山輝機 元毎日新聞社専務取締役     評議員  加藤美代子 元トーア早稲田マンション自治会長  山内修 ヘレン・ケラー学院専任講師  高橋秀治 前日本盲人社会福祉施設協議会理事長  渡邊武松 ヘレン・ケラー学院同窓会会長  大江尚樹 元東京都福祉保健局障害福祉部長、元東京都共同募金会常務理事  長岡雄一 東京視覚障害者生活支援センター所長  福母淳治 (福)日本障害者リハビリテーション協会常務理事 ●平成30年度卒業式  ヘレン・ケラー学院は、3月15日(木)午前10時から平成30年度卒業式・修了式・終業式を行った。卒業生は高等課程2名、専門課程2名の計4名。これに高等課程3年修了生9名が加わり、計13名に馬塲敬二学院長から卒業証書、修了証書が授与された。つづいて1年間の学業成績優秀者に贈る優等賞が9名に、努力賞が2名に贈られた。同窓会長賞は高等課程5年生の橋本絹江さんが、一色賞は同課程5年生の浅利祐二さんが選ばれ、賞状と記念品が贈られた。また、卒業生4名から学院に卒業記念品として「上肢台1台」が寄贈された。  式には東京都の共生社会推進担当課島倉晋弥課長、埼玉県の障害者福祉推進課相子知行主幹、さいたま市障害支援課細渕裕幸課長補佐、東京視覚障害者生活支援センター長岡雄一所長、JR高田馬場駅松河克彦駅長、ヘレン・ケラー学院同窓会渡邉武松会長らが来賓として参列され、祝辞を述べられた。  馬塲学院長は「卒業イコール一人前ではありません。これからも精進、努力を重ね、社会人として大きく羽ばたいてください」と卒業生を激励した。  在校生の送辞に応えて、卒業生代表の橋本絹江さんが「多くの先生や関係者の皆様に支えられながら、とても楽しく充実した学生生活を過ごすことができました」と答辞を述べ、たくさんの拍手に送られて閉会となった。 ●平成31年度入学式  4月5日(金)、平成31年度ヘレン・ケラー学院入学式および1学期始業式が挙行された。  新入生は高等課程6名(うち復学1名)、専門課程4名の計10名であった。  新入生を代表して小石由布さんが、新元号「令和」の由来となった万葉集の一節を詠み「一社会人として自立すべく技能の習得にはげみます」と新たな挑戦に向けて、落ち着いた口調で誓いの言葉を述べた。  その後、馬塲敬二学院長の祝辞に続き、各クラスの新担任と専任講師が紹介され、ヘレン・ケラーの歌「幸福の青い鳥」を全員で合唱して終了した。 ●平成30年度事業報告 【協会本部】  11月10日(土)、トッパンホールで、参天製薬株式会社協賛、文部科学省・全国盲学校長会・毎日新聞社等の後援により第68回へレン・ケラー記念音楽コンクールを開催した。 【ヘレン・ケラー学院】  平成30年度当初の学生総数は22人。卒業生・修了生は13人で、ヘレン・ケラー学院の卒業生と修了生の総数は、延べ1,955人となった。内訳は高等課程の3年修了が1,098人、5年卒業は621人、専門課程の3年卒業は236人である。  第27回国家試験が平成31年2月23・24の両日行われ、当学院からあん摩マッサージ指圧師に現役11人と既卒者3人が受験し、現役8人が合格した。はり師・きゅう師は現役4人と既卒者1人が受験し、ともに現役3人が合格した。  視覚障害者ガイドヘルパー養成研修を7回実施し、139人が修了した。 【点字図書館】  平成29年3月末現在の利用登録者数は1,800人で、前年比6人減となった。平成30年度の自館製作図書は前年比で点字図書が4%減の80タイトル、デイジー図書が5%増の18タイトル。貸出数は、点字図書は前年比21%減の584タイトル、デイジー図書(雑誌を含む)は前年とほぼ同じ21,930タイトルだった。  点字講習受講者交流会を4回実施し、7月は暑中見舞いはがき作製、10月は点字器具等の紹介、12月は年賀はがき作製、3月は日常の点字を紹介した。パソコン講習は延べ30人が受講し、音声パソコンの操作などを学んだ。  見えない・見えにくいことによる不自由さを軽減するための相談・訓練は、日常生活用具・補装具、制度の紹介などの生活相談は70件、移動や日常生活動作、情報機器操作などの訓練は166件だった(うち、訪問支援は132件)。 【点字出版所】  平成31・32年度用視覚特別支援学校中学部点字教科書『道徳』が、文部科学省著作教科書として発行されるので、それを受注・製作した。また視覚特別支援学校理療科用教科書『地域理療と理療経営』を改訂して、第4版を拡大活字版・点字版・音声版で発行した。  『点字ジャーナル』に連載した長崎盲学校元教頭久松寅幸氏の著作『近代日本盲人史 ―― 業権擁護と教育・福祉の充実を訴え続けた先人達』を拡大活字図書で発行した。全盲の語り部川島昭恵氏の録音CD「新美南吉&宮澤賢治」を製作・販売した。また、(株)学研プラスの『やさしく読めるビジュアル伝記8巻 ヘレン・ケラー』の監修を行った。 【盲人用具センター】  ヘレン・ケラー学院の学生を対象にデイジー録音再生機や点字器など学習機材を紹介・普及した。  「サポートグッズフェア」を8月に開催した。 【海外盲人交流事業事務局】  ネパール盲人福祉協会(NAWB)を財政的に支援して、『UEB(統一英語点字)ハンドブック』(点字版)を作製して、ネパール全土の統合教育校等へ配布した。 ●平成31年度事業計画 【協会本部】  創立から69年経過した協会のあり方、将来のあるべき姿について、既成概念にとらわれず新規事業も視野に入れ、様々な角度から検討するために「将来像検討委員会」を立ち上げ、経営上の問題点を洗い出し整理したうえで、結論を出す。  2020年4月に創立70年を迎えるので記念事業として創立70周年記念誌(仮称)編纂を行う。  第69回ヘレン・ケラー記念音楽コンクールを2019年11月16日(土)に、東京都文京区のトッパンホールにて開催する。 【ヘレン・ケラー学院】  平成31年度の新入生は高等課程6人、専門課程4人の計10人になる予定で、新学期の学生数は前年並みとなる見通しである。  学生数の維持・増加に向けて、他の学校とは異なるヘレン・ケラー学院の特色を前面に出してアピールするとともに、国家試験合格率の向上、就職支援の取り組み等を行う。  視覚障害者ガイドヘルパー養成研修を計5回(受講者計100人)行う。同事業とは別に、修了生の技術力アップや見直しのためのフォローアップ研修を11月に行う。 【点字図書館】  マラケシュ条約、改正著作権法の施行を踏まえ、また読書バリアフリー法制定を見据え、視覚障害者等の読書環境の向上を目指す。  点字・録音図書を幅広く、より迅速に製作し、利用者個別の点訳・音訳希望に応じ、「三療師」国家資格取得を目指す学生に対しては、資料製作による学習支援に努める。視覚障害者への点字講習会を行い、点字習得を希望するヘレン・ケラー学院生への点字補講を実施する。  見えない・見えにくいことによる不自由さを軽減するための相談・訓練を実施する。 【点字出版所】  統一地方選挙公報の点字版と音声版を各地選挙管理委員会から受託して製作する。また、日盲委選挙プロジェクトの一員として、参議院議員選挙公報点字版と同音声版を製作する。  新小学校学習指導要領が2020年4月1日から施行され、教科書が改訂されるので、1970年以来、文部科学省から受注・製作している点字教科書小学部「算数」を製作できる体制を整える。  全盲の語り部としてライブハウス等で活躍している川島昭恵氏の録音CD第2弾を作成する。  独ブレイルテックから技術部長を招いて自動製版機PUMA VIIの保守・整備講習会(3日間)を実施する。旧固型点字印刷室を改修して第2会議室を設ける。 【盲人用具センター】  学院・図書館と連携して、アフターケアを十分に行い在校生との関係性を維持しつつ、新入生とも積極的に関わりを持って、日常生活用具等の普及をはかる。 【海外盲人交流事業事務局】  NAWBの点字教科書発行事業に対して、フォローアップのための側面的支援を実施するとともに、継続事業である育英基金の事業管理を行う。 ●資金収支計算書(下記、ホームページをご覧ください) (省略) ●事業活動計算書(下記、ホームページをご覧ください) (省略) ●貸借対照表(下記、ホームページをご覧ください) (省略) ●愛の光通信(LIGHT OF LOVE) No.52 2019.7 夏号・Summer 海外盲人交流事業事務局が年に2回発行する『愛の光通信(LIGHT OF LOVE)』は下記からダウンロードして読むことができます。 http://www.thka.jp/kaigai/reports.html ●平成30年度ご寄附者名簿 平成30年4月1日〜平成31年3月31日 五十音順(個人団体の順)・敬称略 温かいご支援ありがとうございました! 【本部扱い】  賛助会員:参天製薬株式会社  一般寄附:参天製薬株式会社、稲山輝機、杉田安男、藤岡博、松田弘之、按田一歩 【ヘレン・ケラー学院扱い】  賛助会員:青木秀則、石川照子、大島千恵子、此永武夫、坂田和民、佐川日出機、佐野一貴、澤田昌憲、鈴木八重子、田中茂、中島政治、矢作俊一、山崎登志夫、吉田厚子  一般寄附:秋本勇、阿部恵一、石川晶夫、井上雪子、植田員弘、牛窪多喜男、生沼馨、大島千恵子、大修・キミ、小栗誠夫、角田明義、加瀬峯夫、金井定春、金子宏、神田敏男、木村きよ子、帰山良子、黒岩康孝、黒澤絵美、小泉利治・まり子、小谷政夫、小幡亮、小山直行、作馬哲夫、佐藤千恵子、佐野雄彦、鹿濱秋信、清水ひろみ、鈴木愛子、須藤憲一、平光子、田三津枝、田口貞子、玉住博、月見潤、当津純一、中島政治、中山真寿美、根本博行、橋本三郎、馬場義土、早川美奈子、原健、星野博子、前川和男、松本大、三浦真人、南直哉、村上理恵、村野誠、森脇キヨ、横山勝幸、吉岡諄、若鍋よし子、ワキタマサトシ、渡邊武松 【点字図書館扱い】  賛助会員:青木弘、秋山由美子、東濱啓、磯崎治子、内田一夫、落野章一、菊地寛子、斎藤紀年夫、清水奈美江、鈴木由紀、楯香津美、田中雄二、戸沼京子、豊島豊、橋本三郎、畑千尋、原田秀夫、半田翔、平林寿美子、福田拓馬、古川雄、星野博子、堀口俊二、前田律子、正木研、松浦節子、丸山進弘、溝口和子、宮本牧子、森克美、柳崎秀夫、山内経、山内龍子、米田日出明、渡邊武松  一般寄附:青木素子、麻生純子、市角誠、猪股栄二、岩野英夫、小野平八郎、加賀屋信一、笠井実、片山恭子、加藤則夫、小山幸佑、九曜文子、小牧直正、小柳紀男、酒井町子、坂本芳雄、佐子田信夫、塩田和夫、志村富雄、白木幸一、鈴木健夫、鈴木由紀、須藤憲一、田澤芳行、谷口旭、田村徳章、塚村文昭、土居義則、富樫千恵子、西田健治、二瓶幸子、埜村政雄、長谷川あけみ、畠山千代子、畑秀美、人見三義、福島久仁子、藤田ひろ子、本間みさ子、松ア仁紀、松田千富美、松本大、宮本美明、室岡見致、森明彦、森正喜、山口祐二、山口義雄、山ア洋子、渡邊征美、はくたんストラップ制作委員会 【点字出版所扱い】  一般寄附:杉田安男、松本大、エムコマース株式会社 【海外盲人交流事業事務局扱い】  一般寄附:青木貞子、朝妻洋子、芦田賀寿夫、在田一則、安藤生、石田隆雄、植竹清孝、上野伊律子、生形てる子、遠藤利三、大橋東洋彦、大橋由昌、大森純子、岡本好司、貝元利江、梶原剛、勝山良三、加藤万利子、加納洋、川尻哲夫、川田孝子、菊井維正、楠本睦子、黒見恵美子、小泉周二、郷農彬子、古賀副武、小島亮、小林良子、小森愛子、斎藤惇生、酒井久江、坂入隆、坂齊勝男、佐々木信、指田忠司、白井雅人、杉沢宏、鈴木洋子、染矢朝子、高橋恵子、田中徹二、田中正和、当津順子、長岡英司、中原章雄、生井良一、新阜義弘、初瀬勇輔、林紘子、原田美男、富久縞博、藤芳衛、本間昭雄、前山博、増野幸子、松井繁、松浦健三、松本大、御本正、三宅正太郎、宮下浩子、茂木幹央、森栄司、森川精子、森山朝正、安田英俊、山口節子、山本周子、吉田重子、渡辺勇喜三、岐阜県立岐阜盲学校高等部生徒会、小林動物病院、古和釜幼稚園、下館ロータリークラブ、有限会社信和ハウス、園田鍼灸院、点訳・音声訳集団一歩の会、宗教法人花園神社、有限会社ヤマオー事務機 ●UAEのザイード高等組織機構(ZHO)から視察団  日本国際協力センター(JICE)のアレンジで、アラブ首長国連邦(UAE)のザイード高等組織機構(ZHO)から全盲1人を含む10人の代表団が6月15日〜22日の旅程で来日した。  ZHOは、UAE最大の国であるアブダビ首長国の法律に基づいて、2004年4月に設立された障害者のための総合施設である。  同一行に通訳2人とコーディネーター1人がついて、内閣府、東京大学先端科学技術研究センター、東京2020オリンピック・パラリンピック組織委員会、日盲連・日盲委、国立障害者リハビリテーションセンターなどの視察の一環として、6月18日午後、当協会点字出版所を訪問した。  視察団にはZHO点字出版施設長と全盲の触読校正者も加わっていたので、当出版所ではとくに点図の作成に興味を示し、中学『歴史』教科書の資料編に掲載されていた中東の地図を探して、団長である事務総長と通訳がUAEがどこにあるか同行していた触読校正者に熱心に教えていた。  「海外に出れば誰もが愛国者になる」というが、ZHO視察団もその例外ではなく、満面の笑顔で祖国の点図を撫でさすっていた。  UAEはもちろん開発途上国ではないが、点図に関しては「余りに地道な作業であり、きちんと教育を受けた人間がやる仕事ではない」という、職人芸を軽視する開発途上国同様の問題を抱えているようであった。  点図作成はきちんと教育を受けた人でないと作れない。どのような学習効果を期待してこのページにこの図があるか理解し、その教育的意図と背景を充分理解した上で、何を省略し何を強調して作図するか。場合によっては、地図を大胆にデフォルメする必要さえあるからだ。  教育的意図を理解していないと、イランやサウジアラビアという大国は小さな町の名前まで書き、カタールやバーレーンという小国は国名さえ無視するというような、珍妙な中東の点図地図ができかねないからである。 ●助成事業報告  下記の通りご助成を受けて、完了いたしました。ご支援、誠に有難うございました。 公益財団法人 出光文化福祉財団 一、事業名 臨床実習室等(5台)空調設備入替工事 一、総事業費1,180,000円 一、助成額1,000,000円 一、完了日 平成31年3月18日 公益財団法人森村豊明会助成金 一、事業名 デジタル録音図書製作用機器の購入 一、総事業費 279,034円 一、助成額 279,034円 一、完了年月日 平成31年2月28日 公益信託久保記念点字図書援助基金 一、事業名 デイジー再生等機器機及び点字用ファイルの購入 一、総事業費 358,0604円 一、助成額 350,000円 一、完了年月日 平成31年3月28日 ●Puma VII 保守・整備ワークショップ  点字出版所は、6月9日(日)から11日(火)の3日間、ドイツのブリスタ・ブレイルテック社からライナー・フントハウゼン技術部長を招き、同社製自動製版機PUMA VIIの分解・清掃・組立等の保守・整備ワークショップを開催した。  当協会のPUMA VIIは今から約9年前に導入され、その際には同氏も来日し、操作方法とともにメンテナンスの手順等も当時の製版課長に伝えたようだが、それが十分引き継がれないまま今日に至ってしまっていた。  保守整備の作業手順は英文マニュアルがあるので当方の製版課でもわかっていた。従って、分解・清掃はできそうだったが、はたして正確に組み立てられるのか、製版課員の誰もが自信がなかった。  点字製版の際に小さな異音がしていたので気になってはいた。しかし、製版自体にはなんら問題はなかったので、高額な機器に手を出す蛮勇は誰にもなかったのである。  しかし、今年は7月に参院選が予定されており、選挙期間中にトラブルが起こったら一大事である。そこで、今年の2月に協会では、渡航出張費等に約80万円かかるが、新年度事業として、今回の3日間のワークショップを行うことを急遽決定したのであった。  本ワークショップは、製版課職員のスキルアップが目的なので、製版課員が一人づつ分解・清掃・組立作業を、マニュアルに沿って行い、間違った作業を行いそうになったとき、あるいは手間取っているときにのみフントハウゼン氏が助言するというサポート役に徹していただいた。  まず、マニュアルに従いながら6点を刻印する最も重要な部品であるエンボスヘッドの分解を行った。そして分解を始めると早速故障した箇所が見つかった。製版時に不要な点が出ないよう、エンボスピンのまわりにバネが入ったカバーがあるのだが、それを本体に止めている2本のネジのうち1本が、金属疲労のため途中で折れていたのだ。これが原因でカバーが浮き、必要以上に原版にあたるせいで異音を発していたのだ。  折れたEUネジと、まったく同じ長さ太さで、ピッチも同じネジが印刷課にあったので、すぐに付け替えることにした。ただ、EUネジは「マイナスネジ」で、当方手持ちのJISネジは「プラスネジ」だったが、もちろん使用上の問題はまったくない。  結果的に不具合はこの1箇所のみで、あとはカバーを取り外し、エンボスピンについた長年の油汚れを清掃して注油し、再度組み立てを行い、最後に点の高さを調整して、エンボスヘッドの分解・組み立ては終了した。  全体的な構造は仲村点字器製作所製の自動製版機ZPMakerと似ているが、部品の配置やスペースの都合で作業を複数人で行わないといけない箇所や、組み立ての際には少々手間取る部品があるなど、分解・組み立ての難易度はPUMA VIIの方が格段に高いように思えた。  続いて、原版を移動させる際に関係するクラッチモーターやセンサー、ベアリング、ゴムなどを点検した。定期的にメンテナンス・清掃を行った方がよい箇所は先ほどのエンボスヘッドの部分で、モーターやセンサーといった部分は異常が起こらない限りはメンテナンスをする必要はないようだったが、9年間使っているので念のためベルトなどの交換を行ってもらった。モーター等に異常がないことを確認すると、最後にPUMA VIIの内部にある、パソコンの内蔵電池を新しいものに入れ替えた。この電池は、パソコン内の日時を記録するために必要で、およそ5年ほどで電池が切れる。後に調べると、当協会のPUMA VIIは2017年8月に電池がなくなったようで、それ以降のデータは、電源をつける度にPUMA VIIが製造された2008年の0時に戻されていた。電池を新しいものに替え、日時を設定し直すと、電源をつけ直してもきちんと現在の時刻を記憶するようになった。  一連のエンボスヘッドの分解と組み立て作業を初日に2名、二日目に4名が行った。本来は三日目の午前まで、分解から組み立ての予定を組んでいたのだが、早く作業が進んだため、三日目はフントハウゼン氏の簡単な最終チェックのみで全工程が終了した。  このチェックは、きちんとネジが締められているか、ケーブルは取り付けられているか、インターポイントは適正か、などの簡単な確認であった。フントハウゼン氏からOKとの返事をもらい、PUMA VIIのメンテナンスワークショップは無事終了したかに思えた。  ワークショップが終わった翌12日、早速、点字生活情報誌『ライト&ライフ』の原稿が入ってきたので、メンテナンスの確認を兼ねて打ち出していたのだが、どうにも点の具合がおかしかった。点が強く出るせいで、数文字に1つという割合で、原版に穴が開いたのだ。  そこで、点の出を弱くして打ち出してみると、原版に穴が開くことはなくなったが、今度はインターポイントが正しく行われていないという別の問題が見つかった。最初の数行は正しい位置に打たれるのだが、最後の数行になると表の点と裏の点が重なり、文字を消し合うのだ。  結局、原版を固定するY軸の留め具が傾いており、水平に点字が打たれないで、ほんの少しだが右斜め上に打たれてしまったのだ。  最終的な確認は数文字打って済ますのではなく、最低でも原版1枚(表と裏の2ページ分)は打ち出して確認する必要があると思い知らされたワークショップであった。 ●トイレが変身  点字出版所が入居している毎日新聞社早稲田別館「3階の和式個室トイレを洋式温水便座トイレに改修してください」と馬塲敬二理事長から毎日新聞社に陳情していただいたのは、2018年1月のことだったが、それがこのたび実現した。  また、衛生面での不安を解消するために、各個室に点字出版所の負担で、羽田空港も採用しているサラヤ製の便座除菌クリーナーを充填したディスペンサーを設置することにした。  本ディスペンサーの管理を今年度は録音課が行い、次年度以降はこの管理を他の点字出版所の部署が年度ごとにリレー方式で行う計画である。 ●参院選点字公報で大わらわ  第25回参議院議員通常選挙が7月4日(木)公示、7月21日(日)投開票で実施された。  当協会は、日本盲人福祉委員会視覚障害者選挙情報支援プロジェクト(選挙プロジェクト)の事務局メンバーとして、この参議院議員選挙公報点字版製作に中心的に携わった。  今回は衆参同日選の噂が、公示直前まで消えなかったので、事務局としては衆議院が解散した場合に備え、万が一の場合は6月28日(金)に対策会議を開催する計画をたてて万全を期した。     対策@ 投票日が決まらない  前回の第24回参院選の場合は、参院選の日程が「6月22日公示、7月10日投開票」と閣議決定されたのは公示の20日前の6月2日だった。しかし今回は、おそらく「7月4日(木)公示、同21日(日)投開票」であろうという報道はあったが、その日程が閣議決定されたのは、公示 1週間前の6月26日(水)であった。  各地の選挙管理委員会同様、公示1週間前から印刷等の準備を行っていたのでは、選挙関係の業務は間に合わない。そこで選挙プロジェクトでは、最悪の場合は刷り直しのリスクを覚悟して、6月13日(木)に「7月21日(日)投票」を記載した表紙の印刷を外部の印刷会社に発注した。     対策A 製本は「とめる輪ッ!」  前回の第24回参院選「点字毎日号外(東京選挙区)選挙のお知らせ」は88枚だったので、厚すぎてホッチキスによる製本が難航した。そこで今回は選挙プロジェクト事務局や点字毎日編集部と相談して、とめる輪ッ!という商品名の穴に通せる多機能輪ゴムで、二穴を綴じる方式に変更した。     対策B 原稿が入らない  参院選直前の4月1日(月)に結成された「れいわ新撰組」と5月20日(月)に結成された政党連合「オリーブの木」の政見原稿の作成が遅れ、選挙プロジェクトへの原稿提出も予定より1日遅れたので、比例区の選挙公報発行開始も1日近く遅れた。     対策C アルファベットは不可?  点訳→初校→製版→再校→選管立会校正→点字毎日最終校正が終わり、製版課と編集課の全員が安堵しているとき、ある選挙管理委員会から「NHKから国民を守る党の『NHK』を氏名一覧でアルファベット表記していいのか?」という問題が提起され、「氏名一覧を刷り直しした場合、納品はいつになるか?」という問い合わせがあった。  点字出版所は緊急会議を招集して、その対策に大騒ぎになったが、すぐに当該選管からの「過去に『MPD』と表記した例があり、お騒がせしました」との電話で一件落着した。  MPDとは、1983年に第13回参議院議員通常選挙に立候補した「MPD・平和と民主運動」というミニ政党のことである。それにしても36年前の前例を、選管はよく探し当てたものである。  当協会は、11月16日(土)9時開場、10時審査開始で、トッパンホール(飯田橋駅下車、徒歩13分)において、「ヘレン・ケラー記念音楽コンクール」を開催します。  特別演奏はピアニストの樋口一朗さんで、入場は無料です。  皆さまのご来場をお待ちいたしております。 ●編集後記  明け方、冷房がついているのではないかと勘違いする日もある東京は、16年ぶりの寒い7月という観測です。とはいえ当協会の活動はいつにも増してフル回転の忙しさで、紙面を増やしてのホットな活動報告となりました。  馬塲理事長の後任に奥村理事長を迎えて、令和時代に、当協会はどう古い殻を脱ぎ捨てて社会の要請に応えるかが問われています。(福山博) 人事  安生幸司が、4月1日付でヘレン・ケラー学院に配属された。  進藤仁志が、5月1日付で点字出版所印刷課に配属された。  水野静佳が、5月1日付で点字出版所印刷課に配属された。 広報委員会 委員長:福山博(理事・点字出版所長) 委員:大久保美智子(ヘレン・ケラー学院) 委員:戸塚辰永(点字出版所編集課) 委員:佐久間朋(点字出版所製版課) 委員:和泉枝里(点字図書館) 委員:森本環(点字出版所録音課) --------- “視覚障害者と共に” 社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会 ホームページもご覧ください。 http://www.thka.jp ----------