東京ヘレン・ケラー協会会報 青い鳥(L'Oiseau bleu) 第29号 2017年2月1日発行 発行人:福山 博 編集人:福山 博 発行:広報委員会 ●ヘレン・ケラー賞に鈴木萌依さん第66回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール  第66回ヘレン・ケラー記念音楽コンクール(東京ヘレン・ケラー協会主催、参天製薬株式会社協賛、トッパンホール会場協力、毎日新聞社、毎日新聞社会事業団など後援)が11月5日(土)、東京都文京区のトッパンホールで開かれた。  今年の出場者は全国の小学生から大学生まで53人。器楽6部門、声楽3部門の9部門で日頃の練習の成果を披露した。  最も感銘を与えた演奏に贈るヘレン・ケラー賞は独唱2部で1位を受賞した鈴木萌依さん(筑波大附属視覚特別支援・専2)が見事輝き、クリスタルトロフィーと賞状が贈られた。  今年は、ピアニストで東京音楽大学教授の播本枝未子先生が初めて審査にあたられた。また、毎年多くの邦楽コンクールを審査されている『邦楽ジャーナル』編集長の田中隆文先生を新たにお迎えし、邦楽部門の審査をいただいた。なお、常連の審査員は、桐朋学園大学学長の梅津時比古先生、声楽家の淡野弓子先生、ヴァイオリニストの和波たかよし先生。  特別演奏は全盲のソプラノ歌手である橋本夏季さん。彼女は2007年に全盲学生として初めて東京芸術大学音楽学部声楽科に入学、同大大学院に進み修士課程を修了。東京で開催された2009アジアユースパラゲームズにおいて国歌「君が代」を独唱し、「酒田希望音楽祭2013市原多朗とうたう第九」にてソプラノソロを務めるなど、多数のコンサートに出演中。  演目はジャコモ・プッチーニ作曲の全1幕オペラ「ジャンニ・スキッキ」より「私の愛しいお父さん(Oh! Mio babbino)」他4曲で、ピアノ演奏は松本智恵さんが務めた。  第66回ヘレン・ケラー記念音楽コンクールに入賞された方々は次の通りです。  (敬称略、数字は学年) 【ピアノ2部】 1位=相原晴(筑波大附視覚特別支援・小4) 2位=渡辺千優(筑波大附視覚特別支援・小6) 奨励賞=室井興佑(横浜市立すすき野小・4)、鈴木紅杏(横浜市立盲特別支援・小6) 【ピアノ3部】 1位=佐藤翔(東京都立葛飾盲・中2) 2位=佐藤あかり(筑波大附視覚特別支援・中1) 3位=芳沢和子(長野市立桜ケ岡中・1) 【ピアノ4部】 1位=工藤星奈(筑波大附視覚特別支援・高1) 2位=高野翼(栃木県立盲・高3) 奨励賞=田中綾乃(筑波大附視覚特別支援・高1)、岩月かほり(愛知県立名古屋盲・高1) 【弦楽器の部】 1位=株竹大智(武蔵野音大・2) 2位=池内風香(筑波大附視覚特別支援・高2) 【その他の楽器の部】 1位=三刀屋美鈴(唄・三線演奏、東京都立文京盲・高2) 奨励賞=坂本孝暁(箏演奏、筑波大附視覚特別支援・小6)、 我妻空(箏演奏、筑波大附視覚特別支援・小6) 【創作・編曲の部】 奨励賞=善如寺風太(創作演奏、岐阜県立岐阜盲・中2) 【独唱1部】 2位=小汐唯菜(千葉県立千葉盲・小6)、芳沢和子(長野市立桜ケ岡中・1) 奨励賞=小谷野わかば(埼玉県立特別支援塙保己一学園・中2)、二宮慶太朗(愛媛県立松山盲・中3) 【独唱2部】 1位=鈴木萌依(筑波大附視覚特別支援・専2) 2位=足利幸子(筑波大附視覚特別支援・専2) 奨励賞=上田若渚(愛知県立岡崎盲・高2) 【重唱・合唱の部】 1位=愛媛県立松山盲 2位=筑波大附視覚特別支援・中学部合唱合奏部 3位=東京都立文京盲・音楽部 奨励賞=ヘレン・ケラー学院 ●サポートグッズフェア2016 with 学院感謝DAY 視覚障害者向け機器・用具の展示会である第15 回サポートグッズフェア2016 が、8 月27 日(土)にヘレン・ケラー学院で開催された。  3階 ホールでは拡大読書器、点字ディスプレイ、デイジープレイヤー、それに便利グッズや防災用品の展示と一部商品の即売会が、2階では30 分間のチャレンジド・ヨガ体験、冷たい飲み物の無料サービスなどが行われた。  断続的に一日中雨が降るあいにくの天気だったが、約200 名の参加者で盛況だった。  盲界の長老である東京都青梅市にある盲老人ホーム聖明園を経営している聖明福祉協会の本間昭雄理事長もわざわざ見学にこられ、無料マッサージも体験された。  1階と3階では、同時に「学院感謝DAY」として10 〜 14 時、ヘレン・ケラー学院生によるあん摩マッサージ指圧「30 分無料体験会」が行われた。今回は学院生の発案で、実習室を含む3 教室をぶち抜きにして、そのなかの1 教室を待合室にした。従来は狭い実習室も使っていたので、施術者と患者の動線に難があったが、今回はそれが解消されてスムーズな運営ができた。施術者数も94 人と悪天候の割りには好成績だった。 ●防災訓練2016  平成28 年度ヘレンケラー学院・図書館・点字出版所合同の防災訓練が、9 月1 日に行われた。  今年の訓練内容は、避難訓練、通報訓練、地震体験訓練の3 つ。まず、午前11 時、理事長室隣の学院2 階湯沸かし室が出火したとの想定で、学院から図書館と点字出版所事務所に火災発生の連絡があり、学院から消防署に「訓練火災」を通報。点字出版所・図書館の職員、学院の職員・教員・学生併せて60 名が学院玄関前に避難した。  その後、11 時10 分頃から12 時まで、新宿区立防災センターの起震車を使って地震体験訓練を行った。防災センター係員の指導により、4 人ずつ起震車に乗り込み体験した。起震車にはテーブルがひとつあり、視覚障害者は初めからテーブルの下に潜ってもらい、晴眼者は初め立って揺れを感じたら、テーブルの下に潜った。揺れている時間は36秒。最高震度7 まで体験した。 ●2016年度ヘレンケラー・サリバン賞は「シティ・ライツ」代表の平塚千穂子氏に  第24回(2016年度)「ヘレンケラー・サリバン賞」受賞者は、音声解説付映画の普及に尽力し、映画鑑賞を諦めていた視覚障害者とその楽しみを分かち合うことで、生活の質と文化の向上に大きく貢献したバリアフリー映画鑑賞推進団体「シティ・ライツ」代表の平塚千穂子さんに決定。  贈賞式は10月4日(火)に当協会ホールで行われ、本賞(賞状)と副賞として、ヘレン・ケラー女史の直筆のサインを刻印したクリスタル・トロフィーが贈られた。  平塚さんは、早稲田大学教育学部卒業後もアルバイトで働いていたカフェで店長として勤務した。その後別の店に移ったのは、そのカフェが骨をうずめたいと思うほど気に入ったためだったが、経営者との行き違いから退職。結婚にも失敗し、精神的不安定な状態が続いた。そんな行き場のない状況の中、彼女を救ったのは映画だった。スクリーンを通して様々な人生を観るうちに気が紛れて、心が安らぎ、人生を前向きにとらえ直すことができた。そして、人に映画を観せる仕事をしたいと思うようになった。ちょうどその頃、早稲田松竹という名画座に求人募集が出ていたので、アルバイトをはじめた。映画館で働くようになり、ますます映画に魅力を感じていった。  そんな矢先に異業種交流会で、チャップリンのサイレント映画「街の灯(City Lights)」を、視覚障害者に向けて上映するバリアフリー上映会の企画に出合った。彼女は当事者の意見を聞く必要性を感じてトークパフォーマンスを行っている視覚障害者グループと連絡をとった。当初は映画を話題にすること自体気が引けたが、そんな気配は微塵もなく、自分が想像していた以上に、映画にふれたいと思いながら諦めている視覚障害者の現状を垣間見た。  そこで、平塚さんは活弁付無声映画を参考に、10分間の「街の灯」の断片を音声ガイドにしては視覚障害者に聞いてもらうことにし、それを半年以上繰り返した。だが、そうしているうちに、大本の異業種交流会が空中分解して上映会は頓挫した。  それでも視覚障害者の映画を観たいという想いに応えたいと、彼女はそのとき上映していた映画の音声ガイドを一人で試行錯誤しながら作った。その後、映画の音声ガイドについて調べると2000年当時、映画館としてサポートをしているところはなく、市民映画祭で年に1回上映があるかないかだった。  映画祭で音声ガイドを担っている朗読ボランティアやテレビの副音声製作担当者に話を聞いてもどこも手探りで、一から研究しなければ良いものは作れないとわかり、音声ガイド研究会を立ち上げた。これが現在のバリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツの原点である。  その後、仲間を集めてシティ・ライツを組織し、2008年からシティ・ライツ映画祭を開催するが、上映会をやるにしても、一介のボランティアグループと映画館主ではやれることが違う。自由にいろいろチャレンジするためにも、映画館を作ることはその時からの夢となった。  だが、常設シアター開設までには問題が多く、内装工事や音響・映写など必要な設備を整えると最低1,000万円規模の資金が必要だった。家族にも心配されたが、最終的に、クラウドファンディングで募金目標額の1,500万円が集まり、昨年9月1日、ユニバーサル・シアター「シネマ・チュプキ・タバタ」が東京・田端にオープンした。「チュプキ」とはアイヌ語で自然の光の意である。  この映画館は視覚障害者のための音声ガイドはもちろん、聴覚障害者への字幕によるサポートや車いすユーザーにも対応するユニバーサル・デザインを掲げているので、実のところはまだ勉強不足なところもある。しかし、シティ・ライツを立ち上げたばかりの頃を思い起こせば、そうやって学びながら歩んできたのだから怖れることはないと、覚悟する気持ちが出た。固定席は15席、車椅子席を含めても17席という小シアターだが、音響設備は360度音に包み込まれるような感覚になるフォレストサウンドシステムを採用。音声ガイドも無線ではノイズが出るので、座席に直接イヤホンを挿して有線で聞くようにした。  「一時は募金が集まらなかったらどうしようと怖くて仕方がなかったが、本当にたくさんの方にご支援いただき、今は夢を見ているみたいです」と平塚さんは喜ぶ。  そして、障害など関係なく、同じ映画を観て感想をシェアし、心の会話ができる。気を遣うこともなく、ありのままそこにいるということが自然にできて、安心して過ごせるユニバーサル・シアターにしたいと、平塚さんは決意を新たにしている。 ●補助事業完了報告  公益財団法人出光文化福祉財団様より平成28年度社会福祉助成金を受けて、下記の事業を完了いたしました。  本事業の実施により、老朽化による不調が続いていた実技教室の空調設備を更新することができました。お陰様で、厳しい環境から解放された学生達は連日熱心に実技向上に励んでいます。  ここに事業完了のご報告を申し上げますとともに、公益財団法人出光文化福祉財団様をはじめ、ご協力を賜りました関係者の皆様に謹んで感謝の意を表します。 事業名:平成28年度社会福祉助成金 申請内容:基礎医学実習室空調機入替工事 事業費総額:91.8万円 補助金額:90万円 完了日:平成29年1月4日 ●固型点字印刷機の見事な撤去工事  1968(昭和43)年4月、毎日新聞社早稲田別館3階に据え付けられた当協会の固型点字印刷機が、昨年(2016)10月1日に撤去された。  工事は9月24日(土)・25日(日)、10月1日(土)・2日(日)の4日間にわたり行われ、9月24日(土)・25日(日)は、固型点字印刷機とロートクロン、それをつなぐダクト(配管)等の分離・解体。印刷機やダクトの上には48年間のホコリが堆積しており、作業員は使い捨ての白い防護服(タイベックスーツ)にマスク、ゴーグル、手袋を着用しての作業となった。  10月1日(土)、早稲田別館と郵便局の間の通路にはまず大型クレーンを設置。次いで大型トラックを横付けし、三段のステージ(やぐら)用の長方形鉄骨をクレーンで降ろしながら、地上から3階まで積み重ねる。一方、室内では分割された本体をウインチで吊しながら、とび職が窓からステージに搬出。そこから大型クレーンで地上に降ろすのだが、地上から見ていても目がくらみ心臓が高鳴る作業である。  かくして分割したとはいえ、総重量10トンもある固型点字印刷機は順序よく、手際よく搬出され、最終日にステージの解体が行われて作業は無事完了した。 ●参院選「選挙公報」を作成  参議院議員選挙点字公報を作製するため全国の点字出版所が日本盲人福祉委員会視覚障害者選挙情報支援プロジェクト点字版部会に結集して、今回も業務を分担した。  当協会の割り当ては東京、群馬、三重、滋賀、奈良の比例代表と選挙区総計1万部。  今回際だって厄介だったのは174 ページと単行本並の厚さがある「東京選挙区」の点字公報をホッチキスで製本する作業だった。他者がやっているときは簡単な作業に見えるが、実際に自分でやってみるとその難しさに冷や汗をかく。  かくして、歩留まりが悪くて追加で表紙を800 枚も印刷し製本している人数より、失敗したホッチキスの針を抜く作業員の方が多いという異常事態となった。このため、一部では「これでは間に合わない!」という弱音も漏れたが、管理職をも投入した人海戦術で、とにかく何とか間に合わせたのであった。  次回の選挙からは、「120 ページを超えたら2 分冊にする」などの方策を提案しないと大変な事態に陥りそうである。 ●ボランティア懇親会を開催  第42回点字図書館ボランティア懇親会を11月1日(火)、協会3階ホールで開催した。ボランティア活動を5年継続されてくださった方には、その貢献に対して感謝状が贈られているが、今回は点訳ボランティア9人の方に贈呈した。  懇親会の特別イベントは、現在国際的に活躍している活動写真弁士・片岡一郎さんをお招きし、チャップリンの音楽付きサイレント映画「街の灯」を体験した。  片岡さん独自の脚本と演技で見事に活写された名作に、ボランティアさんは大いに笑ったり感動したり。滅多に目にすることのない無声映画のおもしろさを味わった。  上映の後、片岡さんを囲んで懇談。無声映画に関する質問や話題などが飛び交った。     片岡一郎氏のプロフィール 昭和52年11月 東京生まれ 平成13年3月 日本大学芸術学部演劇学科卒業 平成14年2月 澤登翠に入門。門下生としてデビュー 平成14年8月 福岡詩二門下でヴァイオリン演歌師としてもデビュー ●産業医・細谷医師を選任  新宿区医師会会館内にある新宿地域産業保健センターの紹介で、東京都新宿区高田馬場3-27-5にある医療法人社団正修会細谷医院(内科・小児科)細谷哲男(ホソヤ・テツオ)医師を紹介していただき、産業医に選任した。  先生には現在、業務上や人間関係での悩み、プライベートの問題が起因となってメンタル不調を訴えている職員の休職・復職判定、フォロー面談。さらには不調が表面化していない潜在的なメンタル不調職員を把握するとともに、健診結果の就労判定および受診勧奨者の選定、健診有所見者への保健指導等を行っていただいている。     細谷先生からのメッセージ  私は昭和47年に慈恵医科大学を卒業し、外科で約20年、内科で約25年経験しています。現在は内科の医院を開業しています。  産業医は職場で労働者の健康管理に当たる医師で、労働安全衛生法で規定されています。最近、社会問題になっている“電通事件”なども深く関係します。さらに職場の安全、働きやすい環境づくり、心理的な負担を減らすような環境づくりにも努力します。何かございましたら、お気軽にご相談ください。  運動は、学生時代アイスホッケーをしていました。今は昔のように走れないのでプレーはできません。他の趣味は金魚を飼っています。江戸時代から、人々の努力の積み重ねが今のきれいな金魚を作ったのです。 ●編集後記  今号(第29号)から誌面のレイアウトを変更しました。従来は縦書きの新聞形式でしたが、決算書のように数字が頻発する文書は部分的に横書きにする必要がありレイアウトが複雑でした。そこで、今号から全面的に横書きにしました。  青い鳥は、ヘレン・ケラー女史を象徴するもので当協会のロゴマークにもなっています。そのいわれは、女史が1904年にラドクリフ・カレッジ(現・ハーバード大学)を卒業した際、ノーベル文学賞作家で童話劇『青い鳥(L'Oiseau bleu)』の作者モーリス・メーテルリンク伯爵が、ちょうどその時、訪米中の夫人を通して「あなたこそ幸福の青い鳥を発見したただ一人です」とメッセージを伝え、卒業を祝福したことにちなみます。  そこで伯爵に敬意を表し、今回から『青い鳥』の題字にフランス語原題「L'Oiseau bleu(ロワゾー・ブルー)」も添えることにしました。     広報委員会 委員長:福山博(理事・点字出版所長) 委員:大久保美智子(ヘレン・ケラー学院) 委員:戸塚辰永(点字出版所編集課) 委員:岩屋安昭(点字出版所製版課) 社会福祉法人 東京ヘレン・ケラー協会 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-20 本部、ヘレン・ケラー学院 電話 03(3200)0525 FAX 03(3200)0608 点字図書館 電話 03(3200)0987 FAX 03(3200)0982 点字出版所、盲人用具センター、海外盲人事業交流事務局 〒169-0072 東京都新宿区大久保3-14-4 電話 03(3200)1310 FAX 03(3200)2582 ●『青い鳥』Web版http://www.thka.jp/about/information.html ●“視覚障害者と共に”社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会 ホームページもご覧ください。http://www.thka.jp ●『愛の光通信』Web版  海外盲人交流事業事務局が年に2回発行する『愛の光通信(Light of Love)』は下記からダウンロードして読むことができます。 http://www.thka.jp/kaigai/reports.html